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映画日誌’23-11:コンパートメントNo.6

trailer:

introduction:

『オリ・マキの人生で最も幸せな日』で高い評価を得たユホ・クオスマネン監督が、ロサ・リクソムの同名小説を原案にした人間ドラマ。1990年代のロシアを舞台に、寝台列車で相部屋となった男女の交流を描く。本作でフィンランドのアカデミー賞・ユッシ賞の主演女優賞に輝いたセイディ・ハーラが主演を務め、『AK-47 最強の銃 誕生の秘密』などのユーリー・ボリソフ、『動くな、死ね、甦れ!』などのディナーラ・ドルカーロワらが共演する。第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門でグランプリを受賞した。(2021年 フィンランド/ロシア/エストニア/ドイツ)

story:

1990年代のロシア・モスクワ。フィンランド人留学生のラウラは、恋人イリーナと一緒に北極圏ムルマンスクの古代のペトログリフ(岩面彫刻)を見に行く予定だったが、ドタキャンされてしまう。1人で出発することになった彼女が寝台列車に乗り込むと、6号客室にはロシア人炭鉱労働者のリョーハが乗り合わせていた。知的なモスクワの知人たちとは正反対の、粗野な言動や失礼な態度にうんざりするラウラだったが.....

review:

長編第一作『オリ・マキの人生で最も幸せな日』がカンヌ映画祭ある視点部門でグランプリを受賞したユホ・クオスマネン。ロサ・リクソムの同名小説を原案にした本作で同映画祭コンペ部門に選出され、グランプリを獲得。フィンランド・アカデミー賞と言われるユッシ賞では作品賞・監督賞・主演女優賞など7冠を制し、アカデミー賞国際長編映画賞フィンランド代表選出、ゴールデングローブ賞非英語映画賞ノミネートと世界中の映画祭で17冠の快挙を遂げたそうだ。

なかなか輝かしい実績をお持ちの才能だが、実は知らなかった。「アキ・カウリスマキを思い起こさせるメランコリーとオフビートなユーモア」とな。カウリスマキ大好きっ子としてそれは見逃せない。1990年代のロシア、寝台列車で同じ客室に乗り合わせた男女の顛末を描く。ラウラ女史、貫禄ありすぎて女子大生・・・?と思ってしまうが、そういえば私も女子大生だった。

寝台列車は、それぞれの人生を乗せて走る。我々も彼らと一緒に旅をする。モスクワから2千キロ離れたムルマンスクは世界最北端の駅。クオスマネン監督は、それ以上進めない行き止まり場所で、今ある自分を受け入れることの大切さを描きたかったのだそうだ。自分大好き人生楽しいウェーイな仕事仲間が、若い頃シベリア鉄道で一人旅をしたとき本当の孤独を感じて号泣した、という話をしていたのを思い出した。

——どこへではなく、何から逃げているかを知れ

知的で美しいイリーナや彼女の洗練された友人たちに憧れ、その一部になりたいと願いながら溶け込めないラウラ。他人の人生に憧れ、理想と現実の自分が乖離してしまう苦しさは、のたうちまわりながら大人になった私たちの心に刺さる。彼女の不器用で孤独な魂が、粗野だが無垢なリョーハの心に触れ、ゆっくりと溶けていく。遠ざかる駅の灯りが優しく美しく車窓に映るとき、偶然の出会いがもらたした小さな奇跡を目撃する。私が好きなカウリスマキとは違ったけれど、心に深い余韻を残す映画体験であった。

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