映画日誌’21-16:パーム・スプリングス
trailer:
introduction:
カリフォルニアのリゾート地パーム・スプリングスを舞台に、タイムループに巻き込まれて何度も同じ日を繰り返す男女のラブコメディ。監督は本作が長編監督デビューとなるマックス・バーバコウ、『俺たちポップスター』などのアンディ・サムバーグが主演を務め、製作も手掛けている。『ウルフ・オブ・ウォールストリート』などのクリスティン・ミリオティ、『セッション』などのJ・K・シモンズ、『蒼い記憶』などのピーター・ギャラガーらが共演する。(2019年 アメリカ)
story:
砂漠のリゾート地パーム・スプリングス。妹の結婚式に介添人として出席したサラは、そこで出会った青年ナイルズに興味を抱きロマンチックなムードになるが、ナイルズが謎の老人に突然弓矢で襲撃されてしまう。負傷したナイルズは近くの奇妙な洞窟に逃げ込み、後を追ってきたサラは彼とともに強い光に吸い込まれてしまい、目覚めると結婚式当日の朝に戻っていた。状況を飲み込めないサラがナイルズを問いただすと、タイムループに閉じ込められてしまったことが判明し...
review:
タイムループものと言えば昨年ヒットした『TENET テネット』が記憶に新しいが、あんなに複雑怪奇なものではない。舞台は、LAから車で2時間のリゾート地パームスプリングス。かつてはシナトラやプレスリーも別荘を構えた砂漠のオアシスリゾートで、謎のタイムループにはまり同じ一日を繰り返しているだけの男とちょっとした量子力学が登場するB級SFだ。
ありとあらゆる手を尽くしたが、タイムループから抜け出せないと諦めたナイルズは、来る日も来る日も他人の結婚式に出続けている。それだけでも気が狂いそうだが、彼はそれなりに「全てが無意味な世界」を楽しんでいるように見える。そしてある時、花嫁の姉サラがナイルズの道連れとなり同じタイムループに巻き込まれてしまう。
「11月10日」をループする人間は全部で3人。ナイルズ、サラ、そしてナイルズによってこのタイムループに引き込まれたロイだ。同じ境遇にある彼らだったが、運命との向き合い方が三者三様で興味深い。ナイルズへの復讐に燃えていたが、平穏な毎日に安らぎを覚えるロイ。道連れとなったサラと一緒に過ごすうちに愛を覚え、永遠の一日を甘んじて受け入れるナイルズ。ナイルズに愛を感じながらも、後悔のループから脱出し有意義な時間を取り戻すことを決心するサラ。
同じ一日の繰り返しの中で、あの時の表情の理由や、あの時の振る舞いの背景が少しずつ解き明かされていくのが面白い。サラとナイルズにとっても、それは同じ。ループを繰り返すことで、お互い、そして周囲の人々の秘密が明かされていく。綿密に張り巡らされた伏線を回収していく脚本が見事だ。ただのB級SFじゃないぞ!
退屈な毎日の繰り返しでも、2人でいれば楽しい。終わらないパーティーを繰り返す2人の無限の今日は最高に楽しい。でも、明日は永遠に来ないのである。「全てが無意味な世界」が、本当に大切なものを気付かせていく。もう2度と取り返せないからこそ、今日この一日が、かけがえなく愛おしいものになる。大切な誰かと迎える明日が、希望に満ちたものになるのだ。楽しい映画だった。
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