映画日誌’22-46:ミセス・ハリス、パリへ行く
trailer:
introduction:
『ポセイドン・アドベンチャー』シリーズなどの原作で知られるポール・ギャリコの小説「ハリスおばさんパリへ行く」を映画化。『ファントム・スレッド』などのレスリー・マンヴィルが主演を務め、『ピアニスト』などのイザベル・ユペール、「ハリー・ポッター」シリーズのジェイソン・アイザックスらが共演する。監督・脚本はアンソニー・ファビアン、『クルエラ』などのジェニー・ビーバンが衣装デザインを手がけた。(2022年 イギリス)
story:
1950年代のイギリス・ロンドン。戦争で夫を亡くし家政婦として働くミセス・ハリスは、ある日勤め先でクリスチャン・ディオールのドレスに出会う。500 ポンドもするというそのドレスの美しさに魅せられた彼女は、パリにディオールのドレスを買いにいくことを決意。必死に資金を集めてパリのディオール本店を訪れるものの、支配人のマダム・コルベールに冷たくあしらわれてしまうが...
review:
時代を創ったファッションブランドが登場する映画が好きで、ディオールのドレス目当てに軽い気持ちで観に行った。1950年代、第二次世界大戦に出征したまま帰らぬ夫を待っているミセス・ハリス。そんな彼女が雇い主の寝室でディオールのオート・クチュールドレスと出会って心奪われてしまい、何としても手に入れようと奮闘する物語だ。しかし、ドレス購入にかかる費用は500ポンド。現在の日本円で250万~400万ほど!
当時のイギリス(フランスも)はごく一部の上流階級と多数の貧困労働者階級で構成された格差の大きな階級社会で、彼女も家政婦として何軒かのお屋敷を掛け持ちして忙しく働き、慎ましく暮らしている。また、現代は既製品が当たり前の世の中だが、当時衣服は仕立てるものであり、その中でもオート・クチュールはパリ・クチュール組合に加盟したメゾンで縫製されたものに限られた最高級品。当然ファッションショーも特権階級だけの閉じられた世界。
んなこた関係ねぇ(ていうか知らねぇし)といろんな方法でお金をかき集めて、ディオールのアトリエに乗り込むんだけど、徹頭徹尾ディズニープリンセスかな?っていうくらいファンタジー。ご都合主義も大概にしろっていうくらい展開がミラクルすぎて呆気に取られるが、予定調和でいいのよ。なぜならディズニープリンセスだから。ファンタジーだから。お伽話だから。
ディオールのスタイル画をもとに再現されたファッションショー、ディオールの美しいアトリエにも目を奪われるが、実は、このお伽話にはもっと奥行きがある。ミセス・ハリスのドタバタ冒険譚の背景には当時のイギリス、フランスの世相が映し出され、階級社会が崩壊していく予感、実存主義に基づくアンガージュマン、中産階級が増え社会が大衆化していく最初のうねりが描かれている。
会計士アンドレ君は既視感あるなと思ったらイヴ・サン゠ローランがモデルらしい。なるほど、ここから特権階級のファッションを大衆に解放するプレタポルテにつながっていくのか。労働者階級のおばさんが頑張って働いてドレスを買ったよという単純な話ではなく、ミセス・ハリスのささやかな夢が起こした、小さな革命の物語なのだ。軽い気持ちで観たが、思いがけず善い映画だった。いつか原作も読んでみたいと思う。
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