映画日誌’23-41:ダンサー イン Paris
trailer:
introduction:
『スパニッシュ・アパートメント』『パリのどこかで、あなたと』などのセドリック・クラピッシュ監督が、若きバレエダンサーの挫折と再起を描いたドラマ。ダンスシーンに一切のスタントを使わないと決意したクラピッシュ監督が、パリ・オペラ座のバレエダンサーとして活躍するマリオン・バルボーを主演に抜擢。映画初出演にしてセザール賞の有望若手女優賞にノミネートされた。コンテンポラリー界の奇才ホフェッシュ・シェクターが本人役で出演。(2022年 フランス・ベルギー)
story:
パリ・オペラ座バレエで、エトワールを目指すエリーズは夢の実現を目の前にしながら、恋人の裏切りを目撃して心乱れ、着地に失敗して足首を痛めてしまう。医師から踊れなくなる可能性を告げられた彼女は、一晩で恋も仕事も失って呆然とする。失意の中、料理人のアシスタントを務める仕事で訪れたブルターニュのレジデンスで、独創的なコンテンポラリーダンスで世間から注目を集めるダンスカンパニーと出会う。誘われるまま練習に参加したエリーズは、未知なるダンスを踊る喜びと新たな自分を見出していく。
review:
パリ・オペラ座バレエ(Ballet de l'Opera national de Paris)は、世界最古の国立バレエ団であり、世界最高峰の4大バレエ団のひとつである。付属のパリ・オペラ座バレエ学校は世界最高のダンススクールであり、本バレエ団及びバレエ学校に所属するための競争は苛烈を極める。所属するダンサーは上からエトワール(Danseur Étoile)、プルミエ・ダンス―ル(premier danseur)、スジェ(sujet)、コリフェ(coryphée)、カドリーユ(quadrille)の5つからなる非常に厳しい階級制度がある。最上位のエトワールは18名おり、今年初めて日本出身のエトワールが誕生したそうだ。
で、本作はパリ・オペラ座バレエ団でエトワールを目指す女性ダンサーが、本番中に彼氏の浮気現場を目撃するわ、動揺して着地に失敗して足首を負傷するわで踏んだり蹴ったりの目に遭い、失意のどん底から人生を見つめ直す物語である。セドリック・クラピッシュ監督は思春期の頃から一観客としてダンスへの情熱を燃やし続け、2010年にパリ・オペラ座バレエのエトワールであるオーレリ・デュポンのドキュメンタリーを完成させて以来、オペラ座のステージを定期的に撮影している。そして本作で「いつかダンスをテーマとしたフィクション映画を作る」という20年来の構想を実現させた。
実際にオペラ座のルミエール・ダンスーズとしてクラシックとコンテンポラリーを自在に行き来するマリオン・バルボーが主役のエリーズを演じるほか、圧倒的な才能でイギリスのダンス界を牽引するコンテンポラリーダンスの奇才ホフェッシュ・シェクター、フランス出身のメディ・バキが本人役で出演している。しかも、シェクターの代表作「ポリティカル・マザー ザ・コレオグラファーズ・カット」を振り付ける過程にカメラが密着し、トニー賞にノミネートされた振付家の創作の秘密に迫るという豪華なおまけつきだ。
と言うわけで、クラピッシュ監督の手腕によって美しさを最大限に引き出されたダンサーたちのパフォーマンスに魅了され、クラシックとコンテンポラリーの魅力を融合させた映像や音楽、パリ・オペラ座の舞台裏までをたっぷり堪能できる。クラシックで挫折したダンサーがコンテンポラリーに出会う筋書きは既視感もあり凡庸と言えば凡庸だが、それを差し引いても楽しめた。んで、エリーズが新しい世界と出会うブルターニュのレジデンスがとても素敵。宝くじが当たったらオレ、音楽とかダンスとか演劇とかパフォーマーのためのアーティスト・イン・レジデンスの主になる。絶対なる。
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