映画日誌’23-03:SHE SAID/シー・セッド その名を暴け
trailer:
introduction:
映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの長期にわたる性的暴行を告発した2人の女性記者による回顧録をもとに映像化した社会派ドラマ。『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』などのマリア・シュラーダーが監督を務め、『それでも夜は明ける』『ムーンライト』の製作陣が集結。巨大権力に挑んだ記者たちを『プロミシング・ヤング・ウーマン』などのキャリー・マリガンと『ルビー・スパークス』などのゾーイ・カザンが演じる。(2022年 アメリカ)
story:
ニューヨーク・タイムズ紙の記者ミーガン・トゥーイーとジョディ・カンターは、大物映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインが長年に渡り、権力を笠に性的暴行を重ねてきたという情報を得る。取材を進める中で、彼が過去に何度も記事をもみ消してきたことが判明。被害女性たちは示談に応じており、証言すれば訴えられるため声を上げられずにいた。問題の本質は業界の隠蔽構造だと気付いた記者たちは、取材対象から拒否され、ワインスタイン側から調査を妨害されながらも真実を求めて奔走する。
review:
2017年、ニューヨーク・タイムズ紙が報じた記事が世界中で社会現象を巻き起こす。映画界の大物ハーヴェイ・ワインスタインの性的暴行を告発したその記事は、後の#MeToo運動に繋がり世界を変えた。ハーヴェイが手掛けた作品のタイトルを眺めていると複雑な気持ちになる。アートハウス作品に影響されて映画の道を志したハーヴェイが世に送り出した作品は、誰もが知るヒット作はもちろん、小振りな作品でもとにかく良作が多いのだ。
『トゥルー・ロマンス』『イングリッシュ・ペイシェント』『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』『マレーナ』『ショコラ』『ロード・オブ・ザ・リング』 『シッピング・ニュース』『シカゴ』『白いカラス』『コールド マウンテン』『英国王のスピーチ』『ジャンゴ 繋がれざる者』『ザ・マスター』『フルートベール駅で』・・・
こんな作品を作り出せる人がなぜ、”魂の殺人”とも言える性犯罪を犯せるのか。本当に遺憾に思う。ハーヴェイの長年に渡るセクハラ行為を暴いた調査報道はピューリッツアー賞を受賞するが、本作は2人の女性記者が見えない壁に阻まれながらも粘り強く巨大権力に挑んでいく様子が描かれる。主演はキャリー・マリガンとゾーイ・カザン。どちらも好きな俳優なので、それだけで見る甲斐があった。
本作の製作を手掛けたのがブラッド・ピット率いるPlan Bっていうのもミソ。何故なら、作中にも被害者として名前が登場するグウィネス・パルトローがハーヴェイからのセクハラを当時付き合っていたブラピに相談したところ、自身のハリウッドでのキャリアも顧みずハーヴェイの胸に指を突きつけながら忠告したというイケメンエピソードをお持ちなのである・・・!
性被害やセクハラシーンの描写はほぼなく、地道な調査を粘り強く続ける記者たち、厳格な姿勢を貫く報道の現場が淡々とシンプルに、しかしスリリングに描かれる。彼女たちが記者である以前に一人の人間であり、一人の母親であり、一人の妻であることも同時に描かれ、生々しいリアリティをもたらしている。総じて面白かった。社会構造的な悪しき習慣への憎悪と、世界を変えるべく使命感を持って仕事をすることの尊さを同時に強く感じたのであった。おいちゃんも明日からがんばる。
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