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映画日誌’22-36:靴ひものロンド

trailer:

introduction:

「ニューヨーク・タイムズ」2017年「注目の本」に選出されたドメニコ・スタルノーネの小説「靴ひも」を、『ワン・モア・ライフ!』『ローマ法王になる日まで』などで知られるイタリアの名匠ダニエレ・ルケッティが映画化した家族ドラマ。『幸福なラザロ』『おとなの事情』などのアルバ・ロルヴァケルと『閉ざされた雪国』などのルイジ・ロ・カーショが壮年期、『息子の部屋』などのラウラ・モランテ、『ボローニャの夕暮れ』などのシルヴィオ・オルランドが老年期の夫婦を演じた。(2020年 イタリア/フランス)

story:

1980年代初頭のナポリ。ラジオ朗読のホストを務めるアルドと妻ヴァンダ、アンナとサンドロの二人の子どもたちの平穏な日々は、アルドの浮気により一変する。家族の元を去り愛人と暮らす父アルド、衝突を繰り返す両親、壊れていく母ヴァンダの姿を見つめながら子どもたちは育っていくが、数年後、ふとしたきっかけで家族は再び共に暮らし始める。そしてさらに月日は流れ、老齢のアルドとヴァンダは夏のバカンスへ出かけるが、帰宅すると家はひどく荒らされ飼い猫が失踪していた。

review:

家族4人の穏やかな暮らしが、夫であり父親であるアルドの告白で一変する。まるで他人事のように浮気を告白する男。自分で背負いたくない罪の意識を相手に背負わせるタイプのロクデナシである。自分勝手な父親がクソすぎて本当に不愉快、観にきたことを後悔するレベルで不愉快なんだが、何故か目が離せない。

そんなロクデナシに未練がましくすがりつく妻であり母親のヴァンダ、演じるアルバ・ロルヴァケルの掴みどころのないムードがますます不穏な気持ちにさせる。子どもを顧みず、どんどん破滅的になっていく精神的に不安定な母親にイライラして、これまた観にきたことを後悔するレベルで苛立つんだが、何故か目が離せない。

両親の激しい諍いや壊れゆく母親の姿を目の当たりにし、子どもたちは両親の顔色を伺いながら、母親がいるナポリと父親と愛人が暮らすローマを行き来する。子どもたちの成長や精神状態にものすごく悪影響なのでは・・・と心配しつつ、いびつな、そして長い長い家族のストーリーに引き込まれていった。

ひとつの事象がそれぞれの視点で描かれる羅生門的アプローチが取られており、時系列が入れ子になっているが登場人物の髪型や装いで時代が分かるようになっているため迷子になることはない。そして少しずつ真相や家族の本音が明らかになっていく。何もかもがひたすら不愉快なんだが、見せ方がうまくて目が離せなくなるのだ。

もつれてしまった家族の絆は、父が息子に教えた特徴的な靴紐の結び方がきっかけで修復に向かう。が、子どもたちが成長した姿に、家族を裏切った父親や自分しか愛せない母親が彼らにどんな影響を与えたのか突きつけられ、思いがけない顛末に苦笑。なかなかの怪作であった。「家族」という実に厄介なもの、業の深さよ。人間怖い。

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