詩『残香』
ともにあった頃は
駆け抜けるようだった時間が
今は淀みにはまったように
同じところをくるくる回る
ともにあった頃に
気づくことのなかった思いが
後悔とともに浮かんできて
面影ばかりを探している
当たり前と思っていた日々は
特別なものだった
本当に大切なことは
失ってから気づくものだ
山の向こうに消えた鳥や
途切れた足跡のように
辿ることのできない
物語の終わり
残された言葉を
記憶の中の音 映像を
繰り返し浮かべては
よすがとする他ない
花が散るように
残り香もいずれ消えるだろうか
寄せた波が
足跡を掻き消すように
鈴木三重吉『千鳥』を元に書きました。
青空文庫でも読めます。以下ネタバレします。
物語の最後、ヒロインは自分の着物の片袖を残して主人公の前から姿を消します。袖には人の縁に関する言葉があるように、思いがこもる場所ともされ、作中で語られることのなかった主人公への思いが感じられて素敵でした。その袖にあった千鳥紋がタイトルになっています。
恋というにはあまりにも淡い思い、物語に起伏もなく、ちょっとオススメしにくいですけど。
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