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「起こり得る未来」こそ恐ろしいものは無い

前書き~SFの知識と理論を踏まえた、バイオハザードを彷彿とさせる恐怖~


とある方が仰っていました。SFとファンタジーの違いは、現状そのような発明がなされていなかったとしても、緻密に理論を組み上げ、現状の科学と最先端の研究や、想像を組み合わせたものがSF。魔法のように理論や因果の説明が無い、あるいは説明しようがないものがファンタジーだと。

その意味で本書は、SFと断言できる範疇すら超えて、どこからが著者の想像の範囲で、どこからが本当に現代科学で起こりうる未来なのかー。その境目がわからない所が、最大の「恐怖」を煽る作品だと私は感じます。

本書との出会いはいつだったのかー。はっきりと覚えていませんが、恐らく大学時代だと思います。

単行本の発刊が1995年。角川ホラー文庫で文庫本が発刊されたのが1996年。日本ホラー小説大賞を受賞。主催が角川出版とフジテレビだったため、大賞受賞者には賞金と映像化が特典として用意されていました。

映像化を経て、Play Stationでゲーム化もされていますね。ただ、ゲームはやったことはありませんが、いくつか確認をしたところ、本書とはだいぶ内容が異なるようです。
どちらかというと、バイオハザードよりですね。

驚くべきは、筆者はこの時27歳。東北大学大学院薬学研究科に在籍していた当時、処女作としてこの『パラサイト・イヴ』を書きあげ、大賞を受賞したということです。

現在も大学の教員と小説家という二足の草鞋を履く筆者。専門の知識に創造性と想像力、文才が合わさり、文系脳の私が当時ワクワクしながら読み進め、気づけば徹夜で読み上げてしまったのだから、その凄さが伝わるでしょう。

理系の最先端技術や知識というのは、多くの人へ理解されない、途中で飽きられるという、「読み物」としてはデメリットを負っているのですが、全くそれを感じさせず、気づけばその世界に惹き込まれ、次はどんなことになってしまうのか。ハラハラしてしまい、怖いけど読んでしまう。そんな才能の結晶が本書です。

あらすじ


『パラサイト・イヴ』瀬名秀明

”Eve1”。
若き生化学者の永島利明にとって、それは非業の死を遂げた愛する妻・聖美の肝細胞にほかならなかった。だが彼は想像もしなかった。その正体が、《人間》という種そのものを覆す未曾有の存在であることを…!
第2回日本ホラー小説大賞を受賞、日本のエンターテインメントを変えた超話題作ついに文庫化!!

『パラサイト・イヴ』瀬名秀明 角川ホラー文庫

主人公は生化学者の利明なのか、その妻・聖美なのか、それとも…。

もう古い本なので、ネタバレも何もという感じではありますが、なるべくネタバレは少なめに行きたいと思います。

あらすじとしては、聖美が交通事故に遭うところから始まります。彼女は生前、臓器移植のドナーになっていました。

脳死と判定された聖美。利明は狂いそうな悲しみの中で、聖美の希望を優先し、脳死判定後に腎臓を提供することに同意する。

一方、生化学者として核・DNA・動物の細胞、培養などを研究で行っていた利明は、ドナーの体から臓器を取り出す手術をする医師に、「聖美の肝細胞をこっそりと自分に欲しい」と伝えた。

美しく煌めく肝細胞が入ったクーラーボックスを大事に抱え、自分の実験室で培養を開始する利明。順調に培地で増える細胞を「聖美」と思い、大切に育てる利明。

ところが、それはこれまでの人類の英知からはかけ離れた、人間の細胞のはずなのに、恐ろしいスピードで増殖をしていく。そして、結末はスピード感を増し、本当の主人公と壮大な期間をかけた思惑が結実する…。

日本人が書いているのに、まるで海外のSFホラーを読んでいるかの様

日本ホラー小説大賞を受賞したのは先に触れたとおりだが、この圧倒的な専門性、そして緻密に積み上げられた根拠。

何より、日本の着物や風景をあまり感じられず、病院や研究室という無機質なイメージで、どちらかというと海外ホラーのような斬新な内容は、選者の一人が述べた「日本にもようやく世界的レベルの作家が出てきたことを、大いに喜びたい」の言葉の通りだと感じます。

ホラーの中でも、特に「SF」の場合、ある科学技術があり、現状はこのくらいまで進んでいる。

そして、その専門家はこういった斬新な仮説を組み立て、それを立証するために、日々格闘している。だが、本当にその技術が開発されてしまったら、こういった「負」の影響があるのではないか?!

科学というのは、常に人間にとっての利点とデメリットが表裏一体で、ぴったりと張り付いている。
大切なことは、それを扱う人間の倫理性。

しかし、この話は、主人公が「人間」で先端科学を利用して亡き妻を偲ぶ、ある種狂ってしまったマッドサイエンティストの話。では終わらないのです。

数億年という昔に誕生した「ミトコンドリア」。それを専門に研究する利明。ミトコンドリアというのは実に不思議なもので、細胞の中にあって、DNAを核以外にも備えているのです。

現状は、DNAにATP産生の指示を任せて、ミトコンドリアはエネルギーだけを吸収しているように見えるものの、本来はミトコンドリアの中にそのプログラムがあったが、人間の核にそれらを委ねて、ミトコンドリアの方が人間と、細胞をコントロールしている「支配者」なのではないかー。

これが、本書の終始一貫して通っているテーマです。

よく親の記憶は遺伝しない。子どもは産道を通るときに前世の記憶を忘れると言われていますが、もしミトコンドリアが「記憶」を持ち、進化をして、様々な生物に寄生し生き延びて、今は人間の中でどこまで進化をできるか考えているとしたら、親や祖父母、そのまた前の世代の記憶も本来、人間は持ち合わせている。

いや、人間の細胞の1つ1つに含まれるミトコンドリア自体が、その記憶を持っていると言えるのです。

ロマンと畏怖。

不思議な恐怖に支配される大作。
是非、お読みください♪

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