負債は恐れるものではなく、未来を創る力。さくらが学んだ、資産と負債の本当の関係
夕暮れのカフェで、さくらはコーヒーカップを手に取りながら、考え込んでいた。外は薄暗くなり始め、ビルの明かりがちらちらと点灯し始める。今日も仕事が終わり、ほっとしたはずなのに、頭の中には最近読んだ経済の話がぐるぐると巡っている。特に「負債」についての記事が彼女の心に引っかかっていた。
「お兄ちゃん、誰かの負債は誰かの資産だって、どういう意味なんだろう?」さくらはふとした疑問を抱え、目の前に座る兄に尋ねた。
兄は少し考え込んでから、優しく答えた。「それは経済の基本的な構造を理解するための重要な考え方だね。負債と資産は、表裏一体なんだ。」
「でも、私にとっては借金なんて良いものじゃないよ。どうして負債が誰かの資産になるの?」さくらは少し戸惑った表情で言った。
「そう思うよね。借金はマイナスに感じるし、負担になるものだ。でも、経済の仕組みを考えると、負債は必ず誰かの資産と対になってるんだ。」兄はカップを手に取りながら、少し身を乗り出して話し始めた。
「例えば、さくらが銀行からお金を借りて、車を買うとする。そのお金はさくらの負債になるけど、銀行にとっては『貸し出し資産』なんだよ。銀行はさくらから利子を受け取ることで利益を得る。だから、さくらの負債は銀行の資産として記録されるんだ。」
さくらは首をかしげた。「でも、借金する側からすると、ただ返さなきゃいけないお金じゃないの?負担が大きいだけな気がするけど…」
「それも正しいよ。借金は返済の義務があるし、利子もつくから負担にはなる。でも、そのお金を借りて何か価値あるものを手に入れることができれば、それは投資になる。車を買って、通勤が楽になったり、仕事の効率が上がったりすることで、さくらの生活や収入にプラスの影響を与えるんだ。だから、負債も活用次第で資産を生み出すツールになり得るんだよ。」兄はさくらに目を合わせ、慎重に言葉を選んで説明した。
「なるほど…。ただ借りるだけじゃなくて、ちゃんと価値を生み出すために使うことが大事なんだね。」さくらは考え込みながら、ゆっくりとコーヒーを飲んだ。
「そうさ。実は企業や政府だって同じことをしているんだよ。企業は銀行や投資家からお金を借りて新しい事業を始めたり、工場を建てたりする。その負債が企業にとってはリスクかもしれないけど、そのお金が使われることで新しい収益が生まれ、最終的には資産になる可能性があるんだ。」
「企業が借りたお金も、銀行や投資家にとっては資産ってこと?」さくらは少し興奮気味に聞いた。
「その通り。だから、経済の中では誰かの負債が必ず誰かの資産になる仕組みなんだ。例えば国債。政府が発行する国債は、政府にとっては借金だけど、それを買った投資家や企業にとっては資産だよ。政府が将来、国債の利子を払って返済することで投資家は利益を得る。だからこそ、経済全体はこの資産と負債のバランスで成り立っているんだ。」
さくらはますます興味深くなり、机に肘をついて身を乗り出した。「じゃあ、負債って悪いことばかりじゃないんだね。うまく使えば、資産に変わるってことか。」
兄は頷いて微笑んだ。「その通り。もちろん、無計画な借金や使い方を誤ると大きなリスクになるけど、賢く使えば負債は成長を後押しする力になるんだよ。」
「でも、それって私たちの生活にどう関係してるのかな?」さくらは考え込んだ表情で兄を見た。
兄は少し考えた後、丁寧に答えた。「例えば、さくらが住宅ローンを組んで家を買うとしよう。そのお金は大きな負債になるけど、家という資産を手に入れる。そしてその家の価値が将来上がれば、資産価値が増えることになる。逆に、さくらがそのお金を無駄遣いして何も残らないものに使ってしまったら、ただの負債として重くのしかかるだけだ。だから、負債も使い方次第なんだ。」
「なるほど…。ちゃんと考えてお金を使わないと、資産にならないんだね。無駄に使ったら、ただの借金で終わっちゃう。」さくらは少し身を引き締めたように言った。
「そうだね。だから、経済全体を見ると、負債は悪いことじゃなくて、むしろ成長や発展に欠かせないものなんだ。誰かがリスクを取ってお金を借り、それを使って価値を生み出す。そうすることで、経済が動き、成長していくんだよ。」兄はさくらに微笑んで言った。
さくらはその話を聞きながら、経済の仕組みの奥深さに驚きを感じた。自分が「借金」と聞いて抱いていたネガティブなイメージが、少しずつ変わっていくのを感じた。負債は確かに重い責任だけれど、うまく活用すれば大きな力になる。それは、まるで誰かの支出が誰かの収入になるように、負債と資産が常にお互いに支え合いながら動いている世界だった。
「ありがとう、お兄ちゃん。今まで負債って怖いものだと思ってたけど、ちゃんと使えば未来を作れる力なんだね。」さくらはそう言って、少し明るい表情でコーヒーを飲み干した。
兄は優しく微笑みながら、「その通りだよ、さくら。これからもお金の使い方をしっかり考えて、成長に繋がるように行動すればいいんだ。」と静かに答えた。
夕暮れのカフェを後にするさくらの足取りは、少しだけ軽く、そして新しい知識を得たことで未来に向けての自信が少しだけ増したようだった。
参考文献
世界秩序の変化に対処するための原則 なぜ国家は興亡するのか (日本経済新聞出版)