綺麗な死を見せてくれ
「お前、何者なんだよ……!」
顔面を恐怖の色に染めた男が目の前の青年に言った。
普段は最京の街を肩で風を切って歩く裏社会の人間だというのに、今は優男じみた青年を前にして床にへたり込んでいる。
虫も殺さない顔つきの青年は柔らかく微笑んでいた。
ここは街外れにあるガレージ。
寿命の切れかかった電灯に照らされた室内は薄暗い。
「黒沢組の……あのクソどもに差し向けられたのか? やつら俺たち最京連合会とマジで戦争しようってのかよ?」
「違うなぁ。違うんだよ」
笑顔をさらに歪ませて青年が言う。
屈辱が胸から溢れそうだった。男が動けない理由は一つ。目の前の青年に銃を向けられていることにある。
彼の仲間――現在は頭部から血を垂れ流した死体――から奪い取った拳銃を突きつけられているのだ。
男の仲間は他にもいた。
頸部をへし折られた者、レンチで頭部を潰された者、路傍の吐しゃ物のような脳漿を床にぶちまけている者。
多種多様で個性豊かな死因の亡骸がそれぞれガレージ中に転がっていた。
そのすべての下手人が青年であった
「黒沢組? そんな人たち僕は知らないな。裏社会のことなんて興味が無いんだ。僕は綺麗な死が見たいんだ。だから君たちを殺したんだ」
「は?」
彼は最京連合会の敵対組織の刺客ではなかった。
「人が殺される時、綺麗な光がしゅっと抜けるんだ。僕はその光が迸る様が好きでね。なぜなら心が洗われる気がするからね! 君たち醜い悪人たちでもそれはそれは美しい光が見られるんだ。不思議だろ? いい人たちから光を抜いても意外性がないしね! 君たちみたいな悪党から光が溢れるから綺麗なんだ」
男が言葉を返す間もなく、乾いた銃声が室内に響き渡った。
「美しい、美しい死の光だ」
恍惚とした顔で青年が呟く。
「この街ではもっともっと見れそうだ。楽しみだな」
そう言って彼はガレージを後にした。
つづく