不意の朝は夜まで響く
すごくうるさく、すごくくさい。
聴覚と嗅覚への暴力でオレは目が覚めた。
静かなことがこのアパートの唯一のいい所なのに、これでは長所が台無しだ。
猛烈に頭痛がする中、オレは目を瞑った。起き上がる気はさらさらなかった。どうせ二日酔いだ。
何しろ昨晩は大学時代の後輩と一晩飲み歩いたのだ。今のオレはグロッキーなことこのうえなかった。
あきれ顔の後輩の「先輩は変わりませんね」という小言が忘れられない。 在学中は散々可愛がってやったのに冷たい奴だ。
インターホンが鳴ったが、当然無視。
無視を決め込もうとしたら、何度もインターホンを鳴らされた。仕舞いにはドンドンとドアを叩かれている。
「田島さん、いますか!?」
切羽詰まったような声まで聴こえてきた。
流石のオレもこれには対応しなければならないな。そう思ってよろりと立ち上がり、ドアを開けた。
目の前には警官が二人立っていた。何故か向こうのほうがオレに驚いた様子だった。
緊張とそしてわずかな安堵の混ざった奇妙な顔。
「田島イブキさんですね」
「そうですけど何ですかこんな朝から」
起き抜けで玄関の前に警官が立っていたら、その日のはじまりは最悪だなってことは一瞬でわかるだろう。
「もう昼ですよ……。少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
警官越しに外の様子を見やると、アパートの前の道路が人や車でごった返していた。規制線まで貼られてやがる。
「なにかあったんですか?」
「ええ、大いにありますね。このアパートに住んでいる方が亡くなっているんですよ」
「自殺ですか?さっきから臭かったのはこれが理由か」
不謹慎だが、俺はほっとした。そりゃ騒ぎになるわけだわ。
だが、警官の返答で俺は絶句した。
「いいえ、亡くなったのはこのアパートのあなた以外の住人です。あなたを除いて全員亡くなっているんです」
後輩よ。どうやらオレはとんでもないことに巻き込まれたらしい。
続く
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