ひねくれた死んでる女子大生が見つけた生きがいとは……。
「あっ、あった! ここ、ここ!!なんかドキドキする~ ね~サキ先に入ってお願い!!」
高校からの友人のユカに、お願いだからと頼まれて一緒に来るハメになったここのカフェは、おばさんに悩みを聞いてもらうと幸せになれるらしい。 アホらし……。
ひとりで行けよと思ったがユカの頼みを断ると後が面倒だから仕方ない。
中は何とも言えない不思議な空間で、なるほどね、この空気感にみんなだまされちゃうんだな、きっと。
ユカは超舞い上がってる。
「なんか、いい雰囲気ね~落ち着くね~飲み物何にしようかな~? えっと…え~っと…」
優柔不断なユカは、いつものように何にするか決めかねている。
そこに、うわさのおばさんが現れた。
「いらっしゃい、今日のおすすめはピーチパイ。紅茶が合うわよ」
「ピーチパイ大好き!!私はそれにします!! それと、紅茶お願いします」
ユカは、単純にピーチパイごときで大はしゃぎだ。
あー、コーヒーが飲みたい!!
「あなたは、コーヒー?」
なに!このおばさん?
「いえ、わたしも同じものでお願いします」
「ちょっと~サキどうしちゃったの~いっつもコーヒーなのに」
「わたしもおすすめ食べてみようと思ったの」
ユカは、ますます、舞い上がって大はしゃぎだ。
たしかに、紅茶なんて飲みたくない。ましてやピーチパイなんて気分じゃない。
でも、あんなこと言われたら反発したくなる。
ピーチパイと紅茶が運ばれてきた。
一口食べる。
たしかに美味しいけど。
そこに、おばさんが来てユカの恋の悩みを聞いてアドバイスしている。
ユカは涙まで流して、うんうんとうなずいている。
男性のことでここまで悩むなんて私からしたら信じられない。
そうこうしているうちに、やっとユカの気持ちも落ち着いて帰る気になってくれたので、気が変わらないうちに早く退散せねば。
このおばさん人の心を見透かして薄気味悪いわ。
「サキ、今日は付き合ってくれてありがとう。一人で来る勇気がなかったからすごく助かった。おかげで超ハッピーな気分よ。サキも早く彼氏できるといいね」
「私はひとりでもハッピーだから」
「サキらしいね。でも、あのおばさんはサキのことは何も言わなかったね。サキはいつも完璧だからよね!! アドバイスいらないもんね~
わたしは、おばさんのアドバイスを聞いて前向きに彼とやっていく決心がついて気持ちの整理がついた。もうスッキリしたよ。じゃあね~サキまたね~」
ほんとにユカはおめでたい。 あんなに喜んじゃって。
さーてと、スマホ、スマホ……。
スマホがない!!
しまった!!
あのお店に忘れてきたんだ!!
も~最悪!!
来た道を戻り、自分を責めながら戻った。
カフェの前に着くと、おばさんが扉を開けてくれた。
「これでしょ?忘れ物。さあ、もう一回入んなさいよ。コーヒー淹れるから。別に取って喰おうっていうわけじゃないから。さあ、さあ…」
おばさんというのは、自分らの話したいことだけペラペラしゃべって、マジうざいからな~。
まあ、ちょうどコーヒーが飲みたかったから、飲んでさっさと帰ろ。
おばさんがコーヒー持って前の席に座った。
「どうぞ、スペシャルコーヒーよ」
一口飲んでみる。美味しい!!
「美味しいでしょ?」
「あ、はい。とっても美味しいです」
「素性ばれてるから」
えっ?、ばれてる?
「素でいっちゃっていいわよ。いつも、いい子ちゃんを演じていると疲れるでしょ?」
「ど、どーして?」
「全部、顔にかいてあるもの。不満だらけだってことが。それを誰にも気づかれずに演じ続けている。良い人でいる方が面倒なことが起きないからよね?心の中ではいつも悪態ついてるのにね?」
「はぁ~っ!!、わかったようなこと言わないでよ!!」
「そうそう、それよ!! それがホントのあなたでしょ?」
あぶない、あぶない、ついおばさんのペースに巻き込まれるところだった。
「何を言っているのかわかりません。スマホありがとうございました」
席を立とうとしたとき、
「そのコーヒーね、飲むボランティアなのよ。フェアトレード。
貧困の国の児童労働が少しでも減ればいいと思って。あなたも協力してね」
なんだ、このおばさん、いきなりこんな話しをしだして。
「あなた、今のままで、ずっと自分を殺して生きていくの?」
「別に殺してなんかいないから……」
小さい頃から、ずっとだから、別に平気だ。毒母のババアに鍛えられてきたから。
ババアに逆らうと面倒くさいし超うざい。とりあえず言うこと聞いていれば静かにしていてくれる。
ずっとそうやって生きてきたんだ。優等生でいることが私が生きていくために一番必要なことだった。生きていくための処世術なんだ。
「そうかな~ただ波風立てないように生きていく。自分の魂に嘘ついて生きてるんだよ。そんな生き方してたら今に病気になるよ」
「大きなお世話です。病気になって早く死んだほうがよっぽどいいわ」
おばさん怒るかなと思ったけど、なんか優しい顔で、
「そうかな~? 病気は辛いよ~。今は元気だからそんなこと言えるけど」
「でも、あなたは強い人だから病気になっても、きっと痛みにも耐えて悪態ついて死んでいくんでしょうね」
「はぁ~っ?」
「もう、そろそろ、自分を隠さず、自分のために生きてもいいと思うけどな」
「別に人のために生きてるわけじゃないし、私はそんな善い人じゃないから」
「わかってるわよ。自分のために生きてない人が人のためになんか生きられないから。形だけ人助けしたって、それは偽善だからね」
「偽善だって、相手が喜んでいればそれでいいじゃないですか!
それが悪いわけ?」
「良くしてもらった人は喜んでいるから、もちろんそれは悪いことではないわ。でも、あなたの魂は喜んでいないわ。だって、心からその人のためを思ってやってるわけじゃないんだもの」
「心からその人のため?
はぁ~っ!?
わたしは、ひとのために何かするなんて、まっぴらごめんです!!」
おもいっきり音を立てて席を立った。
やっぱり、おばさんは説教ばかり!
自分がどんだけ偉いんだよ!
こころの底から、おもいっきり叫びたい衝動を抑えて、くそババアのいる家に帰った。
「サキ、おかえりなさい。ユカちゃんに会ったんでしょ? 元気だった?
ユカちゃんは、就職どうするのかしら? 何か言っていた? サキも本腰入れて就活しないと遅れをとるわよ!
ママねいろいろ調べてみたんだけどね、今年も結構厳しいみたいよ。
めぼしい会社をそこにメモしておいたから、しっかりチェックしておいてね」
くそババア、かってに人の就職先決めんなよ!!そう叫びたい衝動を抑えて、
「ありがとう……。チェックしておく。ユカと食べてきたから、ごめんなさい夕飯いらないから」
一刻も早く自分の部屋に逃げ込みたい。これ以上ババアと話していたら今日はヤバい気がする。
ベッドに寝転ぶと、カフェで言われたことが頭をよぎる。
少なくとも、あのおばさんは赤の他人だけど、ババアよりは私のことを思ってくれてる気がする。
そういえば、なんか変なこと言っていたな~。
児童労働とかフェアトレードとか……。
ベッドから起き上がり、パソコンの電源を入れる。
発展途上の国では、児童が不当な安い賃金で働かされてる。
それを適正な賃金を払われるようにするのがフェアトレードだ。
フェアトレード製品を買うことがボランティアになるわけか。
ふ~ん……。
そこから、世界の貧しい国の子供たちのことを調べているうちに、何故だか自然と涙があふれてきた。
な、なんなの……?? 涙が止まらない。
涙をぬぐって、さらに調べていく。
子供たち勉強したいのに、貧しくてできないんだ。
次第に、心の中に熱い感情が沸き起こって抑えることが出来なくなった。
こんな感情初めて……。
それからの数日間、ぼーっと子供たちのことばかり考えて過ごした。
自分で自分の気持ちがわからなくなった。
会社説明会の会場では、皆必死になって耳を傾けている。
自分を取り繕って、貼り付けた笑顔が痛々しい。
私は、この会社に入って何の仕事がしたいんだろうか?
全然ときめかない!!
違う!!違う!!
どうしたいんだ!!
自問自答が続く。
何がしたい?
貧しいこどもたち……。
写真のあの子たちの顔がちらつく。
。。。
う~ん
本当はどうしたいか心が叫んでいる。
決めた!!
大学卒業したら、貧しい国に行って子供たちのために働く!!
どうせ、日本にいて今の生活を続けていたって死んでいるのも同然だ!
だったら、死にものぐるいで働いて子供たちのために死んだ方がましだ!
何があっても、今の死んでいる私よりずっといい!!
ー数ヵ月後ー
再び、ここを訪れるとは、あの時は夢にも思わなかった。
扉を開けると、おばさんがにこにこしながら
座って、座ってと席に案内してくれた。
ここは、やはり幸せのカフェなんだ。
わたしもまんまと幸せにさせられたわ。
「今日のコーヒーもとびきり美味しいのを淹れるから」
おばさんは、満面の笑みでカウンターに注文する。
「わたし、アフリカに行くことになりました」
最初から、わかっていたと言いたげなおばさんの顔。
でも、こころからお礼を言いたい。
こんなひねくれ者でも生き甲斐が見つけられたんだもの。
ババアこと母だけが、いまだに口を聞いてくれない。
でも、わたしの人生なんだから。
いつかは、わかってくれるかな。
コーヒーのいい香りがしてきた。
そういえば…… ここでコーヒーを飲んだ時に、おばさんが児童労働の話しをしたから今のわたしがあるわけよね?
ということは、あの時すでにおばさんはこうなることを知っていた。
おばさんって、何ものなの??
おわり
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