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アラフォー女性の一世一代の大決心とは?
待ち合わせのお店に行くと、既にケイ子とヨー子が奥の個室に座っておしゃべりをしていた。
「ごめん、遅くなって……」
「久しぶり~アミ。サチもまだだし全然大丈夫」
高校時代より、かなり丸くなったヨー子が笑顔で答える。
「アミは、いつも若くてキレイ。独身はちがうよね~」
「私も結婚なんかしないで独身でいればよかったな~」
「ケイ子何言ってんのよ!! あんなに素適な旦那さまがいて」
「ふふ、そうかな~」
結局、それを言ってほしいがためにホザいたとしか思えない言葉にウンザリする。
こどもたちの騒がしい声と共にサチが入ってきた。
「ごめ~ん!! 旦那が子どもをみることになってたのに、仕事が入っちゃって~3人とも連れてきちゃった」
「あんたたち、静かにしないとおもちゃ買わないからね!!わかった?」
子供たちが、は~いわかったと言いながら席に着くが既にうるさい。
私は元々のメンバーに入っていなかった。
高校時代の友人たちで食事をすることになっていたらしいが、来るはずの主婦が来れなくなった。キャンセルできない食事代がもったいない。とりあえず誰かを誘おうということになり、私のことを思い出したということだ。断りきれず来てしまったが、やはり来るんじゃなかった。
話しと言えば、子育てがいかに大変かとか旦那の愚痴か自慢しかない。
ときどき私に話を振るが、独身が羨ましいと言いながら、老後一人は寂しいから早く結婚した方が良いという。そして自分たちはなんだかんだ幸せだということをほのめかしているのだ。
結婚してようが、してないかなんて関係ないだろうが!!
ウンザリしてきたので、ユーヤにメールをして迎えにきてもらうことにした。
ユーヤは唯一無二の大親友で超イケメンだ。
ゲイなので変な女同士の確執もないし、男心についてもアドバイスがもらえる。そしてなりよりも素の自分でいられることがいい。要するに一緒にいてラクなのだ。
見た目は外国の映画俳優そのものだ。
アルマーニのスーツが良く似合う。
案の定、ユーヤを見た友人たちは驚きを隠せないという目をしていた。
「ごめんね。これからデートだから。これ代金、お釣りいらないから」
お金をテーブルに置き、そそくさとレストランを出てきてしまった。
「私って性格悪いよね?」
「プハハ……。みんなの豆鉄砲くらったような顔が面白かったね。いいんじゃない。みんな自慢ばっかしてたんでしょ?」
「そうなの!!もうウンザリだった。ユーヤありがと」
「親友のアミが困ってるんだから助けるのは当たり前よ」
「ユーヤ、彼氏とは上手くいってるの?」
「おかげさまでバッチリ!!アミのお陰だよ」
ユーヤの彼氏は私の同僚だ。会社の飲み会でユーヤとバッタリ出会ったときに紹介したのがきっかけだった。二人とも一目惚れだったらしい。
同僚もなかなかの好青年で女性社員にモテモテなのに見向きもしなかった理由がよくわかった。会社内では私だけの秘密だ。
これからその彼と会う約束をしているというので、今度ゆっくり話そうと約束して別れた。
さてと、せっかくの休日なんだから映画でも観るかな~。
それとも、ワイン買って家飲みするかな~。
私は一人でいることに寂しさを感じたことはない。
むしろ、ひとりでいる時間がないと疲れる。
彼が出来ても、ずっと一緒にいたいとは思わないと思う。
夜は一人でゆっくり寝たい。
結婚に意義を感じていないのだ。
人はそれぞれ個性があり、まちまちでいいと思う。
誰もが結婚し、こどもを持つことが良いこととは思わない。
皆もそれは当然だと言いながら、それなのにやはり結婚を押し付けてくる。
そんなことを考えながら歩いていると、15メートルほど先をスマホを見ながら歩いている女性。傍らには2歳くらいの女の子。
女の子が歩道から車道へ出る。母親は気づかない。
車が近づいてくる。
運転手からは女の子が死角になっている。
私は声をあげたが届かない。とっさに走ったが間に合うはずがない。
そこへ若い男性が走って来て、女の子を抱き上げた。
女の子はビックリして泣き声をあげる。
そこで初めて母親がスマホから目をあげて、その情景を目にする。
事情を知らない母親は、男性が女の子をさらおうとでもしてると思ったのか、
「キャー、誰か~変態!!」
男性が慌てて女の子を降ろし、チガウ、チガウと言っている。
東南アジア系の外国人のようだ。
母親が大声を出したので、近くの店主たちがわらわらと出てきた。
「痴漢らしいぞ~変質者だ!!」
「誰か警察呼べ~」
あっという間に大変なことになってしまっている。
2,3人の男たちが彼を羽交い絞めにしている。
私は走り、近寄った。
「ちょっと待って!!その男性は女の子を助けたの!!
このバカな母親がスマホにくぎ付けだったから車に気が付かなかったのよ!!この人がいなかったら、この子は車にはねられていたはずよ!!
この人はこの子の命の恩人なの!!!」
羽交い絞めにしていた男たちが、手を放し男性に謝っている。
そこへ警官が到着して、私がまた同じことを説明した。
こんな大騒ぎになったにも関わらず、母親は一度も謝らなかった。
助けてくれた彼の顔を見ようともしない。
助けてもらったのに、なんで怒っているのか訳がわからない。
その母親は女の子の手をグイグイ引っ張りながら去って行った。
「なんなの!!あの母親!!信じられない!!!」
私の怒りは収まらない。
「あの~、アリガトゴザイマシタ」
当の本人は穏やかな表情で、ニコニコしている。
優しそうな人の好さそうな青年。それにしても、なんてきれいな澄んだ目をしているのだろう。
「ホントに危ないところでしたね。しかし、あの母親、結局謝らなかった。なんなの!!ふざけんじゃないわよ!!」
「あー、たぶん、素直じゃない人。私のこと全然見なかったから。たぶん悪いと思ってた。乱暴だったけど、ちゃんと子供の手つかんで帰ったから」
「そうかもしれないですね。私がバカな母親とか言ったからかもしれない。ごめんなさい」
「あなたは天使です」
「えっ?」
私はあんなに腹が立っていたのに、天使と言われて思わず笑ってしまった。
「天使か~、だったらいいのにね」
「天使は良い人と教えてもらいました」
微妙な違和感を覚えながらも、天使なんて言葉を誰が教えたんだろう? でも、そう言われて悪い気はしない。
「どこの国の方ですか」
「ベトナムです。なまえ、ロンといいます」
私たちは歩道を歩き始めた。なんとも自然な流れで会話が弾み、近いうちにロンが働いている日本料理屋さんに行くことを約束して別れた。
ロンは日本食が好きで将来はベトナムで日本食のお店を持つのが夢だと言った。
久しぶりに目をキラキラさせて夢を語る人に遭った。
なんとも清々しい気分。
ちょっと奮発して美味しいワインとチーズを買って家に帰った。
数日後。
ユーヤと待ち合わせをして、ロンの店に向かった。
「アミのお気に入りの男性に会えるなんて楽しみ!!」
「そんなんじゃないから。でも素敵な男性というのは間違いない」
「それを好きというのよ」
「だから、違うってば!!」
店の暖簾をくぐる。
ロンがカウンターの中でテキパキと働いている。
私とユーヤに気づいて会釈する。
お料理はどれも美味しく、ユーヤもご満悦だ。
お客さんが少なくなってきたときを見計らって、ロンが顔を出した。
「素適な彼氏さんですね」
「違う、違う!!この人は親友」
「そ、アミの同僚がわたしの彼氏なの」
ロンが大きな目をさらに大きくして、
「そうなんですか? アミさんの彼氏さんだと思ってちょっとショックでした」
あっ、と言ってロンがはにかんだ。
お客さんに呼ばれてロンがいなくなると、
「ちょっと、ちょっとアミ!! ロンさんもアミのこと気に入ってるみたいじゃない!!」
「そうかな~~」
柄にもなく照れてアタフタしている自分に驚いている。
この日を境にひとりでロンのお店に足を運ぶようになった。
何回目かにロンが今度一緒に行ってほしいお店があると誘ってくれた。
私は二つ返事でオーケーした。
ロンと会う前日は、ドキドキ落ち着かなかった。
明日は何を着ていこうか?靴はどれにしようか?バッグはどれにしようか?
顔にパックをしながら、何でこんなにキンチョーしているのか自分でもよくわからなかった。
待ち合わせの場所にいくと、ロンはもう来ていた。
「待たせてごめんなさい」
「いえいえ、ベトナム人、時間にルーズだと思われたくないから早く来ました」
なんて真面目な人なんだろう。
ふたりで並んで歩くことがこんなにも嬉しい。
小さな店構えの洒落た暖簾をくぐる。
数名のカウンター席とテーブル席が1席だけのこじんまりとした和食の店だ。
味もどこか懐かしい家庭的な飽きのこない味付けだった。
「僕の理想とするお店なんです」
「すごくいい!!こういうお店がロンにはピッタリな気がする」
「アミさんもそう思いますか? 僕、頑張ります!!」
一緒に和食店に行ったときから急速に二人の仲が縮まった。
お互いの休みの日には、必ずどこかの和食店に偵察に行った。
仕事が忙しくて疲れたので、ロンに会いたくなり、彼のお店に行った。
閉店まで待って一緒に帰ろうと思っていた。
中に入ると、カウンターに日本人ではない若い女性が座っていた。
私を見つけると、ロンが慌てて出てきて、今日はこのまま帰ってと言われた。
とっさにあの女性のためなんだと察した。
なんで私が返されるの?
私のこと彼女だって紹介してくれたらいいのに……。
モヤモヤが消えない。
ユーヤに電話をすると、すぐに駆け付けてきてくれた。
話しを聞き終えたユーヤが頭を抱えた。
「それって、きっと国にいる彼女よね? ヒドーイ!!」
「まだ、はっきりしたことはわからないけど……」
胸騒ぎが納まらない。とにかくロンからの連絡を待つしかない。
何日待ってもロンからの連絡はない。
頭の中がロンのことばかり考えている自分が嫌になる。
元の快適な自分中心生活に戻ろうとしてもダメだ。
頭の中でグルグルとリフレインする。
こんな思いでいるのはもう無理!!
思い切ってロンのお店にいくことにした。
仕事が終わり、扉を開けて暖簾をくぐる。
そこにロンの姿はない。
店主に聞くと、しばらくベトナムに帰っているらしい。
私をただの常連客だと思ってか詳しいことは教えて貰えなかった。
どうして!!どーして!!
何故、何も連絡してこないの?
そうか、私の一人芝居だったのだ。
恋愛していると思っていたのは、私だけだったのだ。
日本人の感覚とは違っていたのかもしれない。
そう結論づけて思いを断ち切ろう。
また元の快適自分生活に戻れるんだから喜ばしいことじゃない?
そう、思えば思うほどロンのことを思い出してしまう。
ユーヤと同僚が気を使って家にワインを持って遊びに来てくれた。
最初は、ワイワイと楽しんでいたが、お酒が入るとなんだか悲しくなってくる。
無理に笑顔を作るのがしんどくなってきた私は寝たふりをして二人に帰ってもらうことにした。
合鍵を持っているユーヤたちはそっと帰って行った。
二週間が過ぎて、同僚に食事に誘われたが断り、駅に降り立った目の前にロンが現れた。
「ロン……」
「アミさん……、連絡しないでごめんなさい」
「何があったの?話してほしい」
二人で私の家まで並んで歩く。
やはり、こうして並んで歩くだけでも幸せだとしみじみ感じる。
マンションのエントランスでロンが驚く。
「すごい。豪華なマンション……」
「この年まで一人で働いてきたんだから普通だよ。さあ。入って」
ダイニングテーブルに座るロンの姿が悲しげで、何故だか胸騒ぎがする気持ちを必死で抑える。
「どうしたの? この前お店にいた女性と関係ある?」
「はい、名前シュアンといいます。シュアンのお父さんは大きなレストラン経営しています。私の父が、私が貯めたお金をだまし取られてしまって、和食のお店の開店資金無くなりました。シュアンは私と結婚してお父さんのレストランを継いでほしいと言ってます。それを伝えに日本に来ました。父の体調が悪くなったのでシュアンと一緒にベトナムに帰りました」
何か言わなければいけないのに、言葉が出ない。
「父と母は喜んでいます。でも私は……苦しいです」
「私が何と言えばロンが喜ぶの? シュアンとの結婚をおめでとうと言えばいいの?」
「私はベトナムにいる間中、ずっとアミさんのことばかり考えていました」
「シュアンのことは好きではありません。私がすきなのはアミさんです。でも、父と母、弟や妹のことを考えると胸が痛くなります。父は自分のせいでお金を取られたことをすごく後悔していて自殺するかもしれなかった。そのときシュアンが父と母にレストランの後継者のこと話しました。父と母は泣いて喜んだそうです。
シュアンは幼いころから私のことを好いていてくれたみたいです。私はその気持ち知らなかった」
なに? 一体この状況は何? どういうこと? どうしたらいい?
私が身を引けばいいの?
違う!!ドラマでこういう展開になったとき、
ダメだよ~好き同士なのになんで別れるの~って、テレビの前で叫んだじゃない!!
ダメ!ダメ!別れるなんてダメ!!出来ない!!
じゃ、どーする???
そうだ!!! 嫌いになればいいんだ!!
「ロン、お願いがあるの。ベトナムに帰るまで、ここに一緒に住んでほしい」
「アミさん……、そんなことしたらますますベトナムに帰れなくなります」
「大丈夫!!、私と一緒に住んだらきっとウンザリして嫌いになると思う。元々、結婚願望があるわけじゃないし、嫌いになれたらすんなり帰れると思う。私も自分快適生活にもどれるし」
「ジブンカイテキセイカツ?」
「あー、それ気にしないで。そうと決まれば、ロン、今日からここに一緒に住もう!!」
そう、これが一番いい。素の私を出せば、ロンはきっと呆れると思う。
私も一人の生活がいいんだから、しばらくしたら、もう帰ってほしいってことになる可能性大!!
我ながらいいアイデア。
嫌われるのは辛いけど、それがお互いに一番良い別れ方だと思う。
ロンが荷物を取りに行く間に、掃除してシーツを取り換えたり、食器を出したり忙しい。
でも、すごく楽しい!!少女みたいにウキウキしてる自分に、ふと気づいた。でも、これは別れるためなんだ。
ロンと離れ離れになると考えただけで悲しくなるが仕方ない。
ロンは私に呆れて嫌いになる!!まちがいない!!
そして去る者は追わず。
ロンが戻ってきたので、私が食事の支度をした。
プロの料理人に私の作った料理が口に合うはずがない。
はい、マイナス5点!!その調子!!
でも、好きな人に作る料理って、楽しい。
あんなに面倒くさいと思っていたのに……。
期せずして美味しい出来映えに我ながら苦笑するしかない。
「アミさん、お料理上手ですね。今度教えてください」
後片付けはロンがしてくれた。
「アミさん休んでて」
なんて優しいロン。
翌日。
昼休みにテラス席のある緑のカフェでユーヤとランチした。
「アミったら、もうホントにバカとしかいいようがない」
「えっ?どうして?」
「一緒に暮らして嫌いになんかなるわけないでしょ!!ますます離れられなくなるに決まってるじゃない!!」
「だって、この私だよ~朝はぼさぼさの髪にシミも目立つ、シワも隠せない。だらしないボロボロのスウェット着て、がっくりするでしょ?テレビにツッコミ入れるし、飲んだくれるし、いいとこないから」
「もう、ホントにアミはどーしよーもないバカ!!
そこがアミのいいところなんだよ!!このユーヤのお墨付きなんだから」
「え~!!なにそれ!!」
「そう、だからアミの作戦は大失敗に終わるよ。
二人が別れるなんて出来っこないから」
「じゃあ、どうしたらいいの??」
「そんなのカンタン!! ずっと一緒にいればいいの」
ユーヤの言うことはいつも正しい。
一緒にいればいるほど、嫌になるどころかふたりの仲が深まっていく。
計算違いもはなはだしい。
そもそも、何が問題なのか?
ロンの開業資金がなくなった。
いくら?
一緒に暮らしたい。
どーしたらいい?
どーしたら?
あっ、私がベトナムに行く!!
私がベトナムに住む?
どーしたらいい?
このマンションの部屋を売ったら?
ロンが納得するだろうか?
好きでもない人と結婚するよりいいんじゃない?
誰と一緒にいるのが一番幸せなのか?
そんなの決まってる!!
メンツとか国籍とか学歴とか家柄とか男とか女とか年上とか年下とか金持ちとか貧乏とか美人とかブサイクとかそんなの一切関係ない。
要は、自分がどうしたいかなんだ!!
☆彡~☆彡~☆彡~☆彡~☆彡~☆彡~☆彡
今、私はベトナムに向かう飛行機の中にいる。
もちろん隣にはロンがいる。
私たちの理想の和食のお店がもうすぐ完成する。
私が住んでいたマンションの部屋は結局ユーヤと同僚が買ってくれることになった。
日本に帰ってきたときは、泊めてもらえることになっている。
あきらめなくてよかった。
それが幸せへの第一歩。 おわり
ここまでお読み頂きありがとうございました。 さくらゆりの