ママ友集団からのいじめに耐える必要なんかない!!
「ママ、早く公園に行こうよ」
3歳の息子の竜馬が急かす。
やっと、苦手な集団生活から解放されて専業主婦の座を手に入れたと思っていたのに。
また集団の中に入らなければならないのだ。
ママ友集団。
恐ろしい響きだ。
嫌な人がいても一緒にいなければならない。
夫に悩みを相談すると行かなければいいじゃないかと簡単に言う。
その集団の中に竜馬と仲良しの子がいるなら行かざるをえないのだ。
私の都合で竜馬を巻き込んではいけないのだ。
私は子供のころから人付き合いが苦手だ。
優柔不断で自己主張出来ない。きっぱり断れないタイプだ。
外見からもそれはにじみ出ていて、嫌なことを押し付けられるのが常だった。
小、中学生の時、ずっと一緒だった孝子は陰でねちねち皆に解からないように私に意地悪をした。
給食当番の時に孝子がおかずの大鍋を運んでいるとき、それをこぼしてしまったことがあった。
すぐに孝子が教室に先生を呼びに行った。
そのとき、叱られたのは私だった。
教室に呼びに行った時に私がこぼしたと告げたのだ。
孝子は、私が本当のことを言わないだろうとしっかり見抜いていたのだ。
そして、家に帰って誰にも気付かれずに泣いた。
悔しくて、情けなくて、そして孝子のことを心から憎いと思った。
公園で、最初に仲良くなった健ちゃんママとは気が合って楽しかった。
健ちゃんママは、社交的でいろいろなママたちと仲良くしていたので、必然的に私も仲間になっていった。
竜馬は、健ちゃんと仲良しなので仲間から外れることは出来ない。
本当は、健ちゃんとだけ遊びたいのに。
マー君ママと初めてあったとき、私は背筋が寒くなった。
顔も声も性格も孝子とそっくりで、辛い過去がリアルに蘇った。
マー君ママは、健ちゃんママと仲良くなりたがっているのは言動でわかった。
健ちゃんママは、明るくて、性格も良くおしゃれで誰とでも仲良くなれるタイプ。
すてきなマンションに住んでいて、みんなが仲良くなりたがるのも当然だった。
健ちゃんママは、とりわけ私と仲良くしてくれた。
竜馬と健ちゃんが特に仲良しだったからだ。
それが、マー君ママには気にくわないみたいだった。
そんなとき、竜馬が健ちゃんと仲良く砂場で遊んでいた。
「あ~ん、竜馬が貸してくれないよ~」マー君が割り込んできた。
「だって、今、これ僕が使ってるんだよ」
砂場でショベルカーを取りあいになっている。
竜馬が持っていたショベルカーを取られまいと大きく後に手を持っていったそのとき、健ちゃんの顔にショベルカーがあたってしまった。
健ちゃんが泣きじゃくる。
「竜ちゃんがやったんだよ、竜ちゃんがやったんだよ」
マー君が大人たちに言いまくっている。
その時、マー君ママがしゃしゃり出てきて、
「健ちゃん怪我はない?大丈夫?」
ハンカチを出し、健ちゃんの顔を拭いてあげている。
そして、竜馬の方に向き直り、
「竜ちゃん、ごめんなさいは?言ってないよね!!」
自分の子が原因を作ったにもかかわらず、竜馬だけを責めるなんて。
でも、竜馬が持っていたおもちゃが当たったのは事実だ。
怪我をさせてしまった。
あ~とんでもないことになってしまった。
パニックになった私は、どうしてよいかわからず、おろおろするばかりだった。
マー君ママが、健ちゃんと健ちゃんママを促し公園から出て行った。
私と竜馬が取り残された。
竜馬がごめんなさいと謝って泣いている。
竜馬が悪いんじゃない!
竜馬と健ちゃんが、仲良く遊んでいたのに、マー君が割り込んで、竜馬のおもちゃを取ったからだ。
それなのに、マー君ママは、自分の子を叱らずに、竜馬に謝れと言った!
やっぱり、孝子と同じだ!! 大っきらい!
憎悪の感情が私の心をいっぱいにした。
次の日、
「僕、健ちゃんに謝るよ」
マー君ママに会いたくないけれど、竜馬の気持ちを大事にしなくては。
公園に着くと3,4組の親子が砂場で遊んでいた。
私たち親子を見ると、みんなの視線がいつもと違う。
気のせい?
ブランコに健ちゃんとマー君がいる。
竜馬が駆け寄ったとき、マー君が
「あっ、竜ちゃんだ!健ちゃん逃げろ~」
そう言うと、二人で走って行ってしまった。
健ちゃんママが、「健、だめよ~戻ってらっっしゃい」
竜馬に対して「ごめんね竜ちゃん」って謝ってくれた。
私は、健ちゃんママに昨日のことを謝った。
健ちゃんママは、気にしないでねと優しく言ってくれたけれど、何故か少しいつもの健ちゃんママと違う気がする。
ふと、マー君ママを見ると、目が笑っていない。
私の心は、凍りついた。
次の日、公園に行くと
いつものメンバーがいない。
どうしたんだろう?
竜馬と二人でブランコで遊んだが、竜馬が帰ると言ったので、買い物があったのを思い出しスーパーに寄った。
隣接している公園を見て息をのんだ。
いつもの仲間が皆で遊んでいる。
何故??
竜馬が気付いて走り寄ったその時、
マー君ママが 「さあ、もう帰りましょう」冷たく言い放った。
健ちゃんたちを促し、あっという間にいなくなってしまった。
竜馬が、ポカーンと淋しそうな顔をしている。
許せない!!
何故こんな目に遭わなければいけないの!!
こんな苦しい想いをするんだったら、子供なんか産まなきゃよかった!!
「ママ~どうしたの?お腹痛いの?」
竜馬が優しい言葉をかけてくれた。
その言葉で我に返った。
あ~私は、なんてことを考えていたんだろう。
「…うん…大丈夫だよ…竜馬ありがとう…。 もう、大丈夫! さあ、おうちに帰ろうか」
私は、優しい竜馬に救われたのだ。
次の日
何も事情の分らない竜馬は、
「ママ、早く公園行こうよ! 健ちゃんたちが待ってるよ」
あ~、行きたくない!! 絶対にまた嫌な思いをするに決まっている。
「ねえ、竜馬、ともこおばちゃんのおうちに遊びに行こうか?」
「え~嫌だよ、つまんないもん。 公園で健ちゃんたちと遊びたいよ」
気が重いけれど、竜馬のために公園に行く決心をした。
公園に行くと、今日はみんな揃って遊んでいる。
竜馬が健ちゃんのところへ走って行く
「健ちゃーん!」
そこへ、マー君が来て、
「健ちゃんは、僕と遊んでいるんだよ」
マー君ママは、聞こえないふりをして何も言わない。
いつもは、注意をする健ちゃんママも何も言わない。
そして、あからさまにマー君ママが
「ねえ、これからうちに来ない? 美味しいケーキを買ってあるの」
2,3人のマー君ママのお取り巻き連中が、きゃーきゃー言って喜んでいる
健ちゃんママが、
「うちは、いいわ。 公園で遊ぶほうがいいから」
「だめよ~健ちゃんママが来てくれなくちゃつまらないわ~」
マー君ママが猫撫で声で執拗に誘う。
健ちゃんが、
「ママ、ボク、ケーキ食べたい!」
そうして健ちゃん親子も皆と一緒に行ってしまった。
みんなそこからいなくなった。
「ママ、僕もケーキ食べたかったな~」
私は、必死で泣くまいと堪えていたが、竜馬の一言に涙が溢れてきてしまった。
「ごめんね。ママ、僕ケーキいらないよ」
そうして、ブランコへ走って行った。
そのとき、ベンチに座っていた中年のおばさんが、
「なんだか、嫌な光景を見てしまったよ。なんだい!あの親子は!!
自分の子が、友達を仲間はずれにしているのに注意もしないどころか、 あんたを仲間はずれにして…。 ったく、しようがないね~」
ベンチで一部始終を見ていたおばさんが話しかけてきた。
私は、耐えきれなくなって声を出して泣いてしまった。
おばさんが優しく肩を抱いてくれた。
「お昼ご飯、まだでしょ?うちのカフェにいらっしゃいよ。
すっごく元気の出るメニューが揃ってるから」
「カフぇですか?」
おばさんがブランコに行き、竜馬を連れてきた。
「竜馬君、うちにくるって。この子はとってもいい子だね~お母さんの育て方がいいんだね」
その一言を聞いて、再び涙が頬に流れる。
「ママ、大丈夫?」
「うん、ママ嬉しいの。竜馬のこと良い子だねって誉めてもらえて。
すごくうれしくて泣いちゃった」
「じゃ、僕いつも良い子でいるね」
「竜馬君はお母さん思いだね~」
おばさんが竜馬の頭をなでてくれた。
私たちは、おばさんのカフェに行った。
そこは、なんとも落ち着いた癒しの空間だった。
メニューもおばさんが言ったとおり、優しくて元気が出そうなものばかりだった。
野菜がたっぷり入ったスープと竜馬が大好きな豆腐ハンバーグを注文した。
デザートは、かぼちゃのケーキ。
コーヒーもとっても美味しかった。
子育てしていると、ゆっくりコーヒーを味わう時間がない。
久しぶりにコーヒーの香りを楽しんだ。
竜馬は、おばさんととても仲良しになりきゃっ、きゃっと楽しんでいた。
私は、実家に戻ってきたような気持ちになっていた。
「落ち着いたみたいね」
「はい…ここに来て本当に良かったです。
あ~、でも、また明日公園に行ったら、あの人がいるんだろうな。 私、彼女が大っきらいなんです!!
むかし、彼女とそっくりの友達にすごい嫌がらせを受けたことがあって、
彼女に会った瞬間に昔の嫌な感情が蘇って嫌悪感でいっぱいになってしまったんです。
最近、毎日が憂鬱で公園に行くのが怖いって感じになってたんです」
「それでも、竜ちゃんのために公園に行ってたのね」
「行かなくていいなら、ほんとは行きたくなかった」
「だったら無理して、行かなくていいんじゃない?」
竜ちゃんに話してみたら?
とってもおりこうな子だから、正直にママの気持ちを話してみたら 分かってくれるんじゃないかしら…」
「そうかもしれません。さっき、私の気持ちを察してくれたのがわかりました。子供だからわからないって思わないがいいって感じていたんです」
「そうよ、そうやって、ママだって苦しいことあるのって正直な気持ちで接していけば、人の気持ちがわかる思いやりのある子に育っていくと思うわ。現に、竜ちゃんはそういう子に育っているわね」
「嬉しいです」
「ねえ、人生って悪いことが起きても、そこで学べることっていっぱいあるよね」
「はい、今回のことで、竜馬に教えてもらいました」
「気づけたら、ひとつ前に進める」
「竜馬にきちんと話して、少し遠くても違う公園に行って、新しいお友達作ることにします。嫌な人とあえて一緒にいることもないってつくづく思いました」
「そう、そう、その調子!
竜ちゃんなら、お友達なんてすぐにできるわよ」
「そうですね。なんだか、気持ちがすっきりしました。
簡単なことなのに、あんなに悩んでたのがバカみたい」
「悩みの中にどっぷり浸かっていると、なかなか気づけないものだから」
私は、心からおばさんに感謝の気持ちを伝えた。
次の日からは、少し遠くて大変だったけれど、竜馬と少し離れた公園に行き始めた。
私の気持ちの変化なのか、人との付き合いの変な構えみたいなものがとれた気がする。
そうすると、自然体で話しができて、すんなりとお友達になれたりするのだ。
竜馬も毎日楽しく新しいお友達と遊んでいる。
「竜ちゃーん」
なつかしい健ちゃんの声がする。
見ると健ちゃんが一生懸命走って来る
「健ちゃん!」
竜馬が大喜びしている。
健ちゃんママが、申し訳なさそに、
「健が、竜ちゃんと遊びたいって、マー君はいじわるばかりするから嫌だって。
あの、ごめんなさい…。
私も、竜ちゃんママとずっと話しがしたかったの。また、前のように遊んでくれる?」
「えっ?……も、もちろんよ!!」
「よかった~~。竜ちゃんママが怒っているんじゃないかってすごく心配だったの。 ほんとうにごめんなさい!!」
「そんな、怒るわけないじゃない」
あんなに仲良くしたかった健ちゃんママの方から歩み寄ってくれるなんて嘘のようだ。
「私、竜ちゃんママと話していると心が落ち着くのね。あんなイジワルなことをしてしまって、ずっと後悔してて落ち込んでいたの。 で、健に相談したら、『大丈夫だよママ。竜ちゃんと竜ちゃんママは優しいもん。だから怒らないよ』って、そう言うのよ。 私も妙に納得してしまって、それでいろいろ公園を探し回ってやっと今日見つけたってわけなの」
私は感動して、ウルウルきてしまった。
「また、前のように仲良くできるのね。うれしい!!」
自分の心に正直に生きるって、こんなにも大事なのね。
ありがとう。感謝。。。
おわり