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しゃべるピアノ|#完成された物語

ショートショートの企画、今回は冒頭が決められているものにチャレンジしてみました。

その男は毎日のように路上でピアノ演奏のパフォーマンスをしていた。
彼の演奏はそれは素晴らしく、観客たちから毎日のように多くの投げ銭による収入を得ていた。
しかし、ある日のこと急に演奏が止まってしまった。

観客たちがざわめいているなか、一人の妙齢の女が男のピアノに近づいていった。
赤いドレスが観客の目を引いた。
彼女は人差し指で、「ラ」の音をポーンと鳴らすと男に微笑みを投げ掛けた。
男は彼女の意図をくみ取った。

男は再び演奏を始めた。
すると女がピアノに合わせて踊り始めた。

男が軽やかなスタッカートを奏でると跳ねるようなステップを踏み、演奏が激しくなると女の踊りも情熱的になった。
その様子は男のピアノと女のダンスの言葉のないおしゃべりだった。

観客は時間を忘れて、二人に魅入られていた。
夜が更けピアノの音が止んだ。
いつの間にか女の姿はなくなっていた。
翌日から、男もピアノごと姿を現さなくなった。

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さくらゆき
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