さらぬわかれ 110
「恒孝さんは、まめに帰ってくるようになったよね」
恒孝は、以前栄子に言った通り、毎週末東京から妻子に会いに帰るようになっていた。
「ちょっとうざったいけどな。まあ、母さんも嬉しそうにしてるから、我慢するよ。」
こんなぶっきら棒な言い方だが、恒太は父親が帰ってくるのが本当は嬉しいのである。
「栄子の両親も、家に帰るのが早くなったんだよな?」
「うん。桂お姉ちゃんの治療費を稼がなくても良くなったからね。それに…『今まで栄子に構ってやれなくてごめん』って、謝られた。」
小学生だった栄子は、今や高校生になってしまった。それだけ年月が過ぎたのだ。今さら謝れてもどうしょうもない。しかし、栄子は両親のことを許すことにした。
「さくらの魂が戻ってから、桂さんに変わったことはないか?」
「お姉ちゃん、少しずつだけど成長しているみたい。」
「祟りから解放されたら、身体の時間が動き出したのかもな」
「そうかもしれない」
目覚めた桂は、妹である栄子が大きくなっていたことに戸惑っていた。これから桂は、時間に置いていかれた不安と戦い続けることになる。栄子は、そんな姉にこれからも寄り添っていくんだと覚悟を決めていた。
「私ね…祟りは辛かったけれど、さくらと恒之新様のこと忘れたくない。」
「うん。俺も忘れない。」
二人はかつて咲かなくなっていた桜の木を見上げた。薄紅色の花が青天の中、咲き乱れていた。
【完】
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