紫陽花の花言葉 16
兄は微笑みを浮かべ、俺の目から溢れ出たものをハンカチで拭いてくれた。俺は「幼い子どもじゃないんだから、自分で拭ける」と可愛げのない言葉を投げ掛けてしまったが、兄は「そうだな」と、機嫌を損ねることもなく、ハンカチを手渡した。「後で洗って返す」と言った小さな約束が、兄との繋がりが出来たようで嬉しかった。
「──夏越……清明……」
目を覚ました父が、小さく呻くように、俺たちを呼んだ。
「お父さん!」
兄と俺は、父の側に寄り添う。父はほとんど見えなくなった目で、息子たちの姿を捉えようと、声のする方に眼差しを向けた。
「2人には、兄弟として過ごさせて……やらなくて、申し訳ないことをした。すまなかった……」
父の声は、弱々しくも、俺たちに伝えようという意志を感じた。
「父さん、どうしてあなたは兄を遠ざけていたんだ。この世を去った妻の忘れ形見である、実の息子を!」
俺は長年の疑問を父にぶつけた。弱っている父には悪いが、今を逃したら永遠の謎になってしまう。
「俺も……亡くなった母のことも含めて聞きたいです」
兄も父に理由を聞きたがった。
どうか答えてほしい。家族との関わりを持てずに生きてきた兄の為に。
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