あなたは桜が見せた幻【未完注意】
※「あなたは桜が見せた幻」は、エブリスタの「桜が嫌いな理由」というテーマのコンテストに応募した物語です。
未完で終わっているので、中途半端なものが苦手な方は、読まないでください。
甘い幻
今年も桜の季節がやって来た。
散っているのは花びらであり、涙である。
「泣いているの?僕が側にいるよ」
伝う涙を拭いてくれるあなたは、夜桜が見せた幻。
私を泣かせているのはあなた。二度とは会えないあなた。
甘い幻に縋ることしか出来ない私は、今宵も幻を魅せる桜を憎む──
出会い
あなたとの出会いも桜の季節だった。
「ルーン、ルーン!」
私は家からいなくなった飼い猫を探していた。
夕日が沈み、辺りは暗くなっていた。ルーンは黒猫なので、今日はもう見つからないかもしれないと諦めかけた時、 寺の方から猫の鳴き声が聞こえてきた。
夜の寺に入るのは気が引けたが、ルーンがいるかもしれないので、勇気を出して寺の境内に足を踏み入れた。
風が木々を揺らす音にすら怯えながら、私はルーンの名前を呼び続けた。
お堂の下にいるかもしれないと、覗き込んでいると、
「この猫、君の?」
と後ろから話し掛けられた。
私は、恐怖のあまり「ヒィッ!」と声を上げてしまった。
「ごめん、驚かしてしまったね。怖がらなくていいよ、僕はこの寺の息子だから」
外灯に照らされたその声の主は、お堂の側の桜の下でルーンを抱いていた。二十歳ぐらいに見える細身の男性の肌は、ルーンの黒い毛と対比して、恐ろしく白く見えた。
「私の猫で間違いないです。」
「そう。見つかって良かった」
男性は抱いていたルーンを私に手渡すと、「気をつけて帰ってね」と言って、闇に消えていった。
香る
家に帰ると、ルーンを洗うため、ブラッシングした。ルーンの体から、ほんのりお香の香りがした。
「あの人、本当にいたんだ」
生命を感じさせないほどに「白い」肌。まるで幽霊のようだと思った。
「お寺の息子って言っていたな」
しかし、黒い髪が美しい整った顔立ちからは、お坊さんには見えなかった。
「にゃ~」
ルーンが、いつまでブラッシングしているんだと言わんばかりに、不機嫌そうに鳴いた。
「ごめん、今終わりにするね」
ルーンをお風呂で洗い、ドライヤーで乾かした後、餌をやった。
ルーンが一心不乱に餌を食べている姿を見て、私はルーンを保護してくれたあの人へ、御礼に行かないといけないと思うのだった。
週末
週末、コンビニでフィナンシェを買って、ルーンを見つけたお寺に行った。
桜は散り始めて、若い僧侶が作務衣を着て、花びらを竹箒で熱心に掃き集めていた。
「すいません、お寺の息子さんはご在宅ですか?数日前、うちの猫を保護してくれた御礼に参ったのですが」
私が話し掛けると、僧侶は手を止め私の顔をじっと確認した。
「坊っちゃんが猫を保護?坊っちゃんは部屋を抜け出していたんですか。坊っちゃんは、人には会うことはありません。御礼は結構ですので、どうかお引き取りください」
僧侶は事務的な口調で、私を門前払いしようとした。
【未完】