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紫陽花の花言葉 10

俺が母の【お人形】をやめたのは、菖蒲さんが家を去った時だった。

菖蒲さんは誰も見送ることなく、僅かな荷物を持って家を出て行った。
俺は、下校中に偶然菖蒲さんを見掛けて、条件反射で呼び止めた。

呼び止めたはいいが、何も話すことがなく黙り込んでいると、菖蒲さんは深い溜め息をついた。

「清明さん、あなたには自分の意思というものはないのですか」
恐ろしいと思っていた菖蒲さんの瞳は、母の冷たい眼差しとは何か違っていた。

「私は夏越さんよりも、あなたの方が心配です。今のあなたは、律花さんの【お人形】のように見えます。……少し言い過ぎました。どうか、お達者で」

菖蒲さんは深々と頭を下げ、俺と別れた。

俺は菖蒲さんの言葉によって、目が覚めた。母が俺を猫可愛がりするのは、愛情ではない。母は自分の思い通りになる【お人形】として、俺を育て上げようとしているのだ。薄々気付いていたのに、見捨てられたくなくて蓋をしていた。だけど、蓋は開けられてしまった。

兄が大学進学で家を去るまで、母の言い付けどおりに兄に関わらなかったことを、この時ようやく後悔したのだった。

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さくらゆき
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