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夢見るそれいゆ 243

「ニャー…」
朔が私の膝の上に乗ってきた。
私は朔を頭から背中にかけて撫でた。

「ありがとう、朔。
あなたのお陰で、國吉先輩に想いを伝えられたよ。」
私がお礼を言うと、朔は撫でていた手に頬ずりした。

朔は猫の姿をしているが桜の精霊なので、私の言葉を理解している。
だけど、私は朔の言葉を聞くことが出来ない。
こうして感情を表現してくれて嬉しかった。

「ひなたさん、お待たせしました。」
先輩のお父さんが、Tシャツとデニムパンツに着替えてきた。
装束を脱いだら、夏越クンほどではないが、かなり若く見える。

先輩のお父さんは、テーブルを挟んで私の向かい側にすっと座った。

お手伝いさんらしき女性が、麦茶とようかんを運んできた。
先輩のお父さんは、女性に「ありがとうございます」とお礼を言った。

「いただきます。」
先輩のお父さんは、麦茶を一口飲んだ後、黒文字でようかんを切り分け、口に運んだ。
食べる所作が先輩そっくりで、やはり父子おやこなのだと感じた。

「ひなたさんも、どうぞ召し上がって下さい。」
勧められて、私も一口ようかんをいただいた。

「わあ、美味しいです。」
羊司先輩の家で作っているようかんは、甘過ぎなくて、上品な味がした。

「昔から、ここのようかんが好きなんです。
よく生前の妻と食べたものです。」
先輩のお父さんは、昔を懐かしんで微笑んだ。

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さくらゆき
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