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Sweet Valentine【後編】

2月14日当日。
俺はチョコとたくさんの果物とマシュマロを用意して、自分のアパートにあおいを呼んだ。

「いつもバレンタインに柊司くんがくれる手作りチョコも美味しいけれど、チョコレートフォンデュも楽しいわね。」
あおいはとてもニコニコしている。

料理が出来ない彼女にとって、俺が切った果物をあおいが盛り付けたことで、共同作業になったのがとても嬉しかったようだ。

フォンデュを堪能した後、俺は席を立って洗い物を始めようとするあおいを呼び止めた。
「あおい、目を瞑って。」
「柊司くん?」
俺は戸惑いながらも目を瞑るあおいの右手を取った。
「こういうこと」は慣れていないから手が震えた。

「──目を開けて良いぞ。」
あおいは右手を見て、信じられないというような顔をしていた。
「柊司くん、これは!」
バイトで貯めたお金で買った婚約指輪が薬指で光っている。
「あおい、俺と結婚してください。」
あおいは一瞬喜んだようだったが、すぐに顔を曇らせた。

「…柊司くん、私なんかで良いの?」
どうやら両親の離婚が頭をよぎったようだった。

「俺はあおいだから結婚したいんだ。今まであおいは社会人で俺は大学生だったけど、やっと俺も社会人になる。
本当は仕事が慣れてからプロポーズするつもりだったけど、俺がいないところであおいが泣いているのは嫌なんだ!」
俺は思いの丈を彼女にぶつけた。

「…私、料理出来ないし泣き虫だよ?」
「あおいが俺の作った料理を美味しそうに食べるのが至福だし、俺が泣かせるとしたら嬉し泣きだ!それとも…あおいは俺と一緒になるのは嫌か?」
もしも嫌と言われたらどうする、俺。

「嫌…柊司くんがいない未来なんて嫌よ。」
あおいは千切れんばかりに首を横に振り、顔を真っ赤にして泣いた。
「ごめん、早速泣かせちまったな。
改めて言わせてくれ。俺とずっと一緒にいよう!」
あおいは今度は「うん。」と小さく首を縦に振ってくれた。

俺は喜びのあまり、あおいの軽い身体を抱えてくるくる回った。
「きゃー。目が回る~!キャハハ!」
ようやく彼女が笑った。俺はあおいの笑顔が一番好きだ。


後日、夏越が「バレンタインうまく言ったか?」と聞いてきた。
「ああ。夏越のお陰でな。」
と報告すると、控え目に「そうか。」と微笑んだ。


【完】

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さくらゆき
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