【コラボショートショート】欲しいものは
このショートショートは、航さんが澪さんと再会する少し前のお話です。
12月24日。外は曇っていて、昼間なのにとても暗く寒い。
同居させてもらっている息子・航平の家では、クリスマスパーティーが開かれていた。
「メリー・クリスマス!航生、彼方、良い子にしてたか?」
サンタクロースに扮した僕の親友・志津が、野太い声を張り上げる。
「志津じいサンタ、僕たち良い子にしてたよ!」
僕の孫二人は声を揃えて、自分たちが良い子であることをアピールする。
「そうか、そうか。では、プレゼントをあげよう」
志津は担いでいた白い袋から、プレゼントを取り出し、孫たちに手渡した。
「ありがとう、志津じいサンタ!」
志津に礼を言うと、早速包装を破り、夢中で中身を確認していた。もらったプレゼントを、嬉しそうに両親に自慢している。
「毎年すまないね、志津。僕がサンタの衣装を着ると、どうしても似合わなくてね……」
「いいってことよ、そんなに改まらなくて。俺だって楽しんでやってることなんだし!」
恰幅の良い志津は、まるで本物のサンタクロースのように衣装を着こなしている。
「航、ちゃんと食べれているのか?また痩せたんじゃないのか?」
志津が心配そうに僕の顔を覗く。
「……実咲さんを亡くしてから、あまり食べる気がおきなくてね」
妻を亡くしてから、食べ物が味気なくなった。世界も、今でさえクリスマスだというのに色がくすんで見えている。
「お前、嫁さん最期まで介護して、大事にしてたもんな……」
志津の鼻がグスンと音を立てた。
「心配かけてすまない」
詫びる僕の背中を、志津は励ますようにポンポン叩いた。
「航は何か欲しいものはあるか?志津サンタがプレゼントしてやる!」
「……アップルパイ」
僕は欲しいものという言葉に、反射的に答えていた。
「ん?」
僕の声が小さくて、志津には聞き取れなかったようだ。
「いや、何でもない」
僕が本当に欲しいのは、ただのアップルパイではない。遠い昔に別れた、愛しい女性が焼いてくれたアップルパイだ。そんなの、本物のサンタクロースでも用意出来るわけない。
「あっ、雪!」
孫たちの声に、僕は窓の外に目を遣った。
この雪は積もるのだろうか。愛しいあなたのいる場所も雪は降っているだろうか。
【完】