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【コラボショートショート】同じ空を見上げる

may_citrusさんの小説「ピンポンマムの約束」のコラボショートショート「キジュとベイジュ」の続きです。


一礼をして赤い鳥居をくぐると、参道の両脇にある銀杏並木が黄色に色づき始めていた。参道は舗装されているので、高齢の僕でも歩きやすい。

「もう少し気温が下がったら、紅葉が進んで綺麗でしょうね」
澪さんが明るく微笑む。

「澪さん、知ってますか?銀杏は燃えにくくて火に強い性質があるんですよ。木造の建物を火から守ることを目的に、よく寺社に植えられているんです」

「そうなのですね!航さんは本当に物知りですね」

手水舎に着くと、色とりどりの菊が浮かんでいた。

「見事な花手水だ!」僕は感嘆の声をあげた。

「宮司のお母様とお姉様が、花手水にしていると聞きました。……もしかしたら、パートナーの金先生もお手伝いしているかも」

「澪さんが勤めていた病院の心理士が宮司の跡を取ったのですよね。10年ぐらい前に、美生さんを通じて結婚報告の連絡がありましたね。大きな封筒に入ったウエディングカードと、いろんな婚礼衣装を着た彼らのフォトブックが届いたので、びっくりしました」
新郎ふたりのフォトブックは、アイドルの写真集のようだった。

「結婚写真、お互いのルーツを大切にした結果、全部を選んだんですね。金先生らしい、豪快な選択だわ!」

神社の跡取りと、同じ性別の在日の医師、ふたりが結ばれるのに困難を極めたのは想像に固くない。結婚が成就した時は、この上なく喜んだことだろう。

手水舎で手を清めた後、僕たちは拝殿に向かった。

拝殿にたどり着くと、雅楽が流れてきた。結婚式が行われていた。顔は見えないが、新郎新婦は結ばれる幸せを噛みしめているに違いない。

僕たちは、式の邪魔にならないよう、静かに二礼二拍手一礼し、再婚してから共に生きてこられたことへ感謝を祈った。

参拝を終えた僕たちは、拝殿横の御神木に歩みを進めた。

「この杉の木、2本の木が途中から1本になっているんです。連理の杉って言うんですよ。縁結びの御利益があるって云われがあって、航さんとずっといられますよう願ったんです」

僕は杉の木に感謝を込めて撫でた。

「私、看護師最後の患者さんと約束したんです。私が結婚式に着けていたピンポンマムの髪飾りを、結婚式に着けてほしいって。もう会うことはなくても、幸せを願い続けてるんです」
澪さんは、祈るように杉の木に触れた。

「あなたが忘れない限り、縁は繋がり続けているんです。たとえ会えなくても、同じ空の下にいるんです。」

僕と澪さんは同じ空を見上げ、ピンポンマムの髪飾りの人の幸せを祈った。


【完】


コラボ小説「ピンポンマムの約束」、今でも大切に思っています。

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さくらゆき
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