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紫陽花の花言葉 1

20年ぶりに会った兄は、記憶の中とほとんど変わらない姿で俺を見た。

「……『清明せいめい』で、いいんだよな?」
兄は戸惑いながら、俺に話し掛けた。男性にしては少し高くて柔らかい声は、俺が思っていたより冷たい印象はなかった。

「ああ。久しぶり、夏越なごし……兄さん」
兄をどう呼んで良いのか悩んだ末、こう呼ぶことにした。

「『兄さん』か……そう呼んでくれるのか」
兄は困ったように口角を上げた。俺は黙って頷いた。

律花りっかさん、俺を呼び出すこと……よく許してくれたな」
兄は薄暗い廊下を見回した。「律花」とは、俺の母の名前である。

「兄を呼び出すのに、母さんの許可なんて要らないだろう?本来は」
兄を毛嫌いする母に許可を求めたら、反対するに違いなかった。

「俺がここにいること、律花さん知らないのか」
兄の顔に緊張が走った。

「大丈夫。今は母さんは家に帰ってるよ。兄さんとは鉢合わせにはならない」

「そうか」
兄は安堵のため息を吐いた。

「だから、早速父さんに会ってやってよ」
俺はハンドルを握り、静かに病室のドアを開けた。

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