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海砂糖【#シロクマ文芸部】

海砂糖を求めて。

人魚に、人でなくなる呪いをかけられた王子を救うため、隣国の王女が深海の魔女が精製した海砂糖をもらうため、旅に出た。

王子と王女は、幼なじみであり婚約していた。恋心があるわけではないが、見知った人間が苦しんでいるのは、見るに耐えなかった。

まずは海に潜る為、海女さんに弟子入りした。

「王女さまが直々に出向かなくても、命令すればいくらでも動いてくれるんじゃないの?」
王女と同い年の海女さんが、取り立てのウニを剥きながら聞いた。

「深海の魔女は人の身分から離れた存在。王族だからって、誠意のないことは出来ないわ!」

「ふ~ん、そういうものなの」
海女さんはウニを剥き終えると、王女に潜水とウニの採り方を教えた。

一週間後、王女はウニを採るのが上達した。

「もう、私が教えることは何もないわ!」
師匠の海女さんのお墨付きをいただき、小麦肌になった王女は深海に向けて海に潜った。

深海の魔女の館にたどり着くと、魔女は王女を館に招き入れた。

「深海の魔女さん、はじめまして。こちらはこの海で採れたウニです」
王女はお土産のウニを魔女に渡した。

「人間の王女よ。人間から土産をもらったのははじめてた。お前、気に入った!願いを聞こう」

「魔女さん、人魚の呪いを無効化する【海砂糖】が欲しいのです。婚約者の王子が、人でなくなりつつあるのです」

すると、魔女は少し考えて、王女に尋ねた。

「その王子は、助けるのに値する存在か?人魚の呪いを受けるなんて、よほどのことがあったのだろう」

「実は、言葉を話せない少女を城で保護したのですが、実は王子に恋い焦がれて人の姿になった人魚だったのです。その人魚を王子はひどいふり方をしまして、翌朝人魚は消えてしまったのです。そのことで人魚の家族の怒りを買い、王子は呪いを受けたのです」

王女から事情を聞いた魔女は、大きくため息をついた。

「ろくでも無い人間だな。呪いを成就させてやった方が良いのではないか?君主としての資質も疑わしいぞ」

「あんなやつでも、幼い頃からの知り合いなんです。苦しんでいる姿を見るのは辛いんです」
王女は魔女に頭を下げた。

「願いを聞くと約束したのは私だ。叶えてやろう。海砂糖は、人魚の泡から精製しなければならぬ。ちょうど、新鮮な泡を手に入れたところだ。少し待て」

魔女は、壺から泡を取り出すと、魔法で精製して、砂糖に定着させた。

「これが海砂糖だ。王子に飲ませてやるが良い。ただし、王子が正気を保てる保証はないがな」

「ありがとうございます、魔女さん!」
魔女が最後に言ったことが気になりつつ、王女は王子の元へ帰っていった。

久しぶりに会った王子は、既に脚を失っていた。代わりに、下半身は魚のものになってしまっていた。

「王女!このままでは、王子は肺で呼吸が出来なくなり、亡くなるところでした。早く海砂糖を飲ませてください!」
王子の主治医に促され、王女は海砂糖を口移しで飲ませた。海砂糖は、王女が人生で口にしたものの中で、最も甘かった。

王子の呪いは無効化された。しかし、王子は気が狂ってしまっていた。海砂糖に使われた人魚の泡は、王子がふった人魚のものだったのだ。

王子は、海砂糖を摂取したことで己の血肉になった人魚の愛の言葉を、頭の中でずっと囁かれ続けることになった。

隣国の王女は、そんな王子のもとへ嫁ぎ即位した。

庶民に寄り添える名君として、生涯を夫のかわりに国を治めたのだった。

【完】


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