それいゆ、誕生日
「紫陽花の季節、君はいない」の番外編です。
2022年8月24日。俺の友人、柊司とあおいさんの愛娘ひなたは1歳の誕生日を迎えた。
「今日が平日じゃなければ、もっと盛大に誕生日パーティー出来たんだけどな〜」
残念そうにしている柊司は、自分の姉妹や両親から届いたプレゼントを開梱しているところだ。
「何だか申し訳ないわ。私の実家は逆に疎遠だから…」
あおいさんの両親は彼女が幼いときに離婚していて、母親は孫が出来ても無関心、父親は音信不通である。
「なご、なご!」
ひなたが、さっき俺がプレゼントしたつみきを指差している。
「ひなた、これで遊びたいのか?」
俺がつみきを一つ差し出すと、満面の笑みを返してきた。
「夏越ー、パーティーの準備は俺たちがやるから、ひなたと遊んでやってくれ。」
柊司は一番上の姉・詩季さんの店から送られてきたバースデーケーキをテーブルに並べた。ひなたも食べられるように、甘さ控えめにしてあると添えられた手紙に書かれていた。
料理が苦手なあおいさんは、部屋の飾り付けを担当していた。
ひなたは、新しいつみきを俺に渡したり、時々口に運んだりしていた。
「ひなちゃん、夏越くんと遊べて楽しいね。」
飾り付けを終えたあおいさんがひなたに微笑みかけた。ひなたは「ままま…」と言うと、あおいさんにつみきを渡した。
「1年経つの、早かった気がする。」
俺はひなたを抱きかかえた。昔は、紫陽花の精霊だった恋人の目覚めを待つのに、1年が長く感じていたものだったのに。
「私もそう思うわ。とても目まぐるしかったもの。」
家族の愛に恵まれなかったあおいさんが、柊司と出会い結婚、子どもが生まれるという大きな変化があったのだ。
そう思うのは、もっともだと思った。
「おーい!準備出来たぞー!」
テーブルには、火の着いたロウソクが1つ刺さったバースデーケーキと大人向けにはオードブル、ひなた用の離乳食が並べられていた。
「Happy Birthdayひなた〜」
柊司はおもちゃのウクレレを弾き語りすると、ひなたを抱きかかえていた俺に「夏越、ひなたの替わりに、火吹き消して!」と目線を送ってきた。
俺がろうそくを吹き消すと、柊司がスマホで連写してきた。
「そのスマホも、買ってから1年経ったな。」
1年前、柊司がスマホを水没させ、ひなたが生まれそうになった時に連絡が取れずに苦労したのは、一生忘れないだろう。
料理を食べたあと、柊司が「夏越、皆で写真撮ろうぜ!」と言った。
俺はスマホを預かると、柊司とあおいさんとひなた3人の姿を写した。
もう、この家にひなたがいないなんて有り得ないと思った。
「お前も写れ〜」
柊司は俺からスマホを取り返すと、自撮りで全員を写した。そして、俺のスマホに画像を送信してきた。
俺のスマホの壁紙が、この時4人で写した画像になったのは、秘密である。
【完】