紫陽花の花言葉 8
「兄さんは、菖蒲さんのこと苦手ではなかったの?」
俺は、兄さんにも厳しく接していた菖蒲さんを気にかけている兄がどうしても不可解なので、聞いてみた。
「……当時は、何で礼儀作法とか厳しいんだろうって思うこともあった。文字の書き順まで正しく書けって言われるぐらい細かく言われた。だけど、俺のことを、真正面に向かい合ってくれたのは、菖蒲さんだけだったんだ。まあ、こういう風に思えるようになったのは、ここを離れてからなんだけどさ……」
兄は、後頭部を触りながらはにかんだ。
兄にとって、菖蒲さんは家族よりも家族だったのかもしれない。血の繋がりのある俺ですら、兄のこんな表情を引き出せないのに。
頼んでいた料理が運ばれてきた。食べようとしたとき、俺のスマホが鳴った。母からの電話だった。
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