食べる夜の……【#シロクマ文芸部】
食べる夜の悪夢。我は獏。
今宵も極上のご馳走を探して、夜空を駆ける。
近年は子どもですら夜遅くまで起きているから、なかなか食事にありつけない。
我は夜行性ゆえ、朝には寝床に帰らねばならぬ。
ご馳走にありつけぬまま、朝をむかえるなんて、それ以上の悪夢もない。
しかし、己の悪夢は食えぬ。
明かりの消えた家を発見した。
壁抜け能力で家に進入する。
獲物は30代の男。
見事な魘されぶりに、よだれを垂らしそうになる。
「お邪魔します」
我は男の夢の中へ分け入る。
夢の中は、歪んだ会社のオフィス。
終わらない残業に、パワハラ上司の暴言の無限地獄。
男は逃げ出し、会社の屋上から……って、ちょっと待て!
我は落下していく男を咥えて、地上に降りた。
「もう終わりにしたいのに、何で助けたんだ」
男は叫んだ。
「死んでしまったら、終わりにするどころか悪夢に囚われ続けるのだ。大丈夫、おぬしはもう、あの場所から逃げ出す勇気を得た」
我は巨大化し、オフィスを丸呑みした。
「では、現の健闘を祈る!」
我は、呆けている男の夢から抜け出た。
朝焼けが美しい。
極上のご馳走を得て、我は良き夢を見られそうだ。
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