【ショートショート】冥界の蝋燭 #冬ピリカグランプリ
ほの暗い彼岸の世界、冥界。
今日は霊魂たちが天国から命の蝋燭工場を見学にきている。
「人間界ではここの蝋燭が燃え尽きると死ぬと言われていますが、生まれ変わる時にまた新品の蝋燭をこの工場で作っているんですよ。」
一見すると人間の女性だけど、角が生えたガイドが朗々と説明している。
「じゃあ、私達が今度あちらの世界に行く時にはここの蝋燭をもらって灯りをともすんですね。」
「そうですよ。だから不具合が起こらないように検品する作業が大切なのです。」
ガイドの説明に霊魂たちはざわついた。
「ふ、不具合が起こると、どうなるんですか?」
恐る恐る霊魂のひとりが質問した。
「まあ、寿命が来る前に冥界に還ることになりますね。」
ガイドは淡々と答えた。よく聞かれることのようだ。
「大丈夫。今まで蝋燭の不具合で還ってきた人はほとんどいませんから!
それに万が一の時は保証もきくので安心してくださいね。」
「保証?」
「不具合が起きた人生をやり直す権利を与えられます。でも、不思議とその権利を行使した人はいないんですよね。」
ガイドは検品したての蝋燭を1本取って、霊魂たちに見せて回った。
蝋には色がついていて、花の絵が描かれていた。
「蝋燭はひとりひとりデザインが違うんですよ。そして炎の色も違うんです。魂の色そのものなんです。」
一通り蝋燭が回りガイドの手元に戻ると、ガイドは蝋燭を元の場所に戻した。
「そういえば、ここで働いている人たちは元々冥界の人なんですか?」
霊魂のひとりが質問した。
「実は…蝋燭の不具合で冥界に戻ってきた人たちなんです。
人間界にも戻らず、天国にも地獄にも還れないのでここで働いてもらっています。」
ガイドが含みのある笑みを浮かべた。
これ以上深掘りしない方が良い話題だと皆が悟った。
「──次が最後の場所です。」
ガイドに案内されたのは、冥界の広場だった。
無数の蝋燭が灯りとなって、辺りを照らしている。
「あなた方が人間界で幸せに生きれば生きるほど、蝋燭の灯は持ちが良くなり明るくなります。
ですので、せいぜい人間を楽しんで下さいね。」
ウインクするガイドの言葉に、「いや、覚えてないから!!」と霊魂全員でツッコミを入れた。
見学を終えた霊魂たちは、天国へ帰って行った。
今度ここに来るときは、生まれ変わる時である。(938字)