【コラボショートショート】そのお星さまは甘く春の味がした
3月14日。あなたが京都の研修から帰ってきた。
「志津課長、お土産の生八ツ橋です。営業部の皆さんと召し上がってください」
あなたは志津に生八ツ橋の詰め合わせを手渡した。
「鈴木、ありがとうな!おーい、皆!お茶にするぞ!」
志津が声を掛けると、営業部全員が集まってきた。
「繁忙期の受験シーズンはご苦労様!この生八ツ橋は、鈴木からの土産だ。どうぞ食べてくれ」
志津は営業部のムードメーカーだ。大量の書類まとめでピリピリしていた部署内が、一瞬で和やかになった。僕は少し離れたところから、その様子を見ていた。
「海宝課長。入社して1年経ちましたね」
あなたが僕に話しかけてきた。
「ええ。鈴木さんがいてくれたお陰で、実績も残せたし、この会社の仲間とも良好な関係を築けました」
あなたは皆がこちらを見ていないのを確認して、
「これ、海宝課長にお土産です。京都の老舗の金平糖なので、疲れた時につまんでください!」と、小さな袋に入った金平糖を僕に手渡した。
「ありがとう。大切にいただきます」
僕は人に見られないよう、スーツのポケットにしまった。
「海宝課長、金平糖ってお星さまに似てると思いませんか?」
「そう言われれば、似ていますね」
「海上で夜空を見上げたら、この金平糖みたいに星が輝いて見えるのでしょうか」
「……気象条件が揃えば、人工的な明かりがない分綺麗に見えると思いますよ。昔は星で方角を確認していたぐらいですから」
「いつか海の上の星空を眺めてみたいです。きっと言葉に表わせないぐらい綺麗なんでしょうね」
海なし県の栃木出身のあなたは、目を瞑り、想像の中で航海に出ていた。
「ええ、きっと」
決して実現することはないと分かっているが、想像の中で僕もあなたと星空の下の航海を楽しんだ。
「おーい、海宝、鈴木。そんな端っこにいないで、こっち来いよ!生八ツ橋、お前らの分が無くなるぞ」
志津の呼ぶ声で現実に引き戻された僕たちは、皆の輪の中に入っていった。
仕事おわり、あなたからもらった金平糖を食べると、疲れた心身を癒やしてくれた。その甘さは、春のようなせつなさをも僕にもたらすのだった。