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つくも×ムジカ 2
石畳の道のある古い職人街。
楽器修理を生業とする少女の姿をした魔女がいた。
彼女が直した楽器は、聴く者、奏でる者を幸福にする魔法がかけられているようだった。
今日は、魔女が外出の為、付喪神たちがお留守番である。
「ほーほー」
緑色の鳥が店内を飛び回っている。オカリナの付喪神だ。
「こうやって飛んでいるところを見ると、本物の鳥に見えるね。」
和服の少女が黒ずくめの青年に話し掛けた。
「魔女はああ見えても、国に認められる程の魔力の持ち主だからな。」
青年はカウンターに突っ伏しながら、気怠そうにしている。
「魔女って言われなければ、普通の女の子にしか見えないものね。」
少女はハタキを取り出してきて、店内の掃除を始めた。
「貴方の呼び名『バンドネオンの悪魔』も魔法のひとつなんだよね?」
「ああ、名前がまじないになっているんだ。
付喪神とはいえ、人のかたちを常に保ち続けるのは難しいからな。
そういうアンタの『大正琴のお嬢さん』もまじないになっているんだぜ。」
青年が少女を一瞥した。
「そうだったんだ!気づかなかった。」
魔女のまじないは、かけられた対象が気付かないぐらい、さりげないものなのだ。
「…じゃあ、『オカリナの鳥』も?」
少女が鳥を指差した。
「ほーほー!」
そうだと言わんばかりに、鳥は鳴いた。
「そういえば、魔女さんの名前、私知らないんだけど…」
「魔女は諱を明かしてはいけないんだ。
悪用されたり、他の魔女に呪いをかけられたりするのを防ぐためにな。」
青年は頭を持ち上げ、頭をガシガシかいた。
「名前を呼んでもらえないのって、少し淋しいね。」
少女は大正琴の時代、持ち主に放置されていた過去を思い出していた。
オカリナの鳥が少女の肩に留まった。
「鳥が、『だから、うちらがいるんじゃないか!』って言ってるぞ。」
青年が立ち上がって、少女の頭を撫でた。
「そうね、私達が魔女さんに淋しいと思う隙を与えなければいいんだ!」
少女は興奮しながら、ハタキがけを進めた。
「おいおい、そんなにはたいたら逆効果…ハックション!!」
青年は本来のバンドネオンの姿に変わってしまった。
「ご…ごめん。」
「そのうち戻れるから、気にすんな。」
バンドネオンの声は沈んでいた。
店のドアが開き、ドアベルが鳴った。
魔女が外出先から帰ってきたのだ。
「ただいま〜!ありゃ?バンドネオンの姿に戻っちゃってる。」
魔女のお陰で、バンドネオンはすぐに青年の姿に戻ることが出来た。
石畳の道のある古い職人街。
楽器修理を生業とする魔女と付喪神たちが、今日も賑やかに暮らしている。
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