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2022年8月の記事一覧

【コラボ小説】ただよふ 20(「澪標」より)

【コラボ小説】ただよふ 20(「澪標」より)

あなたと会う約束をした日の朝、僕は新潟の祖父母の空き家から息子に電話をかけた。

「航平、東京に来てから仕事でとてもお世話になった人が辞めることになってね、その人は今日東京を離れるんだけど…どうしても会ってお別れの挨拶を言いたいから、病院には行けないんだ」
僕はもっともらしい言い訳をした。

「分かった。もしも病院から連絡があったら、父さんの代わりに聞いておくね」

「すまないね、航平。……ねえ、

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【コラボ小説】ただよふ 19(「澪標」より)

【コラボ小説】ただよふ 19(「澪標」より)

息子から「大学に行かない」と聞かされて、僕が自室で愕然としていると、妻が夕飯が出来たと言いに来た。僕と妻と息子は静まり返った食卓で一緒に夕飯を食べた。息子は食べ終えると、自分の分の食器を洗って自室に籠もってしまった。夕食後からずっと、妻は不安を訴えることは無かった。そんな日は久しぶりだった。

僕が寝泊まりしている馬橋のアパートに戻る時、妻が玄関まで見送りに来た。妻は「今までごめんなさい」と言った

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【コラボ小説】ただよふ 18(「澪標」より

【コラボ小説】ただよふ 18(「澪標」より

馬橋のアパートで仕事中、スマホが鳴った。恐る恐る画面を確認すると、志津からだった。僕は大きく深呼吸してから、電話に出た。

「航!さっきメールで送られてきた書類、日付と数字が間違ってたんだけど!」

「すいません、今訂正して送り直します。……志津課長、リモートとはいえ仕事中だから……」

「『海宝と呼べ』か。家だと仕事モードになるの難しくてなぁ」

自宅とは別に部屋を借りている僕と違って、自宅で仕

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【コラボ小説】ただよふ 17(「澪標」より)

【コラボ小説】ただよふ 17(「澪標」より)

都内に緊急事態宣言が発令されると、僕たちは延期になった試験への対応に追われた。

試験会場で勤務する登録スタッフは、体温の申告、不織布のマスク着用、アルコール消毒が義務付けられ、大声を出す誘導スタッフはフェイスシールドを付けることになった。

だが、本社オフィスでは、入口にアルコール消毒液が設置され、デスク間に透明のパーテーションが入った以外は大きく変わらず、健康管理は各自に委ねられていた。

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