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由美ちゃんと僕。



由美ちゃんが僕に冷たい態度を取るようになってどれくらいが経っただろうか。僕と由美ちゃんは毎日一緒に学校へ行って、授業を一緒に受け、2人の時間をノートに記してきた。
由美ちゃんの手は暖かくて、その体温に包まれる度、僕の心も暖かくなった。僕は由美ちゃんのことが大好きだった。
「由美ちゃんいつも同じだね。」お友達の葉月ちゃんにそう言われた由美ちゃんが、「私ね、これじゃないとダメなんだ。」と言ってくれた時は心の底から嬉しかった。この世に生まれてきて本当に良かったと、そう思った。だけど、女心というのは本当に分からない。その時は、突然やってきた。
ある年の冬を越え、春が訪れたのと同時に由美ちゃんは僕を筆箱の中から抜き、机の中にしまった。僕だけをしまったという訳ではなく、クレヨンや色鉛筆、チューブのりも一緒だった。なんで由美ちゃんは突然、僕達をしまったんだろう。理由が分からない僕達は、虚ろな心のまま暗闇を眺めていた。




大人はみんな「地元の子がそのまま行くんだから、中学生になっても変わらないよね。」なんてことを言っているが、私達からすれば変わることばかりだ。算数は数学になり、校舎も先生も使う文房具も変わる。小学校では禁止されていたシャーペンを持つと、お姉さんになったようで嬉しかった。
入学から1週間が経ったある日のホームルームで先生が言った。「今日から部活動の仮入部期間です。ここの学校は全員入部しなきゃいけない決まりです。部活は学生にとって大切なものだから、慎重に決めましょう。」クラスのみんなはワイワイと、「仮入部届け」に行きたい部活を記入していった。
葉月ちゃんはどうやらテニス部に行くようだ。いつものニコニコ顔で報告してくれた。「由美ちゃんは何部?」「私は美術部にしようと思ってるの。油絵をやってみたくて。」春休みにお母さんと美術館に行った時、ミケランジェロの『アダムの創造』を見て、絵の世界に引き込まれてしまった。
顧問の先生はとても綺麗な人だった。「今日は仮入部の生徒が来てるわね。1、2、3…5人ね。」美術室には絵の具の匂いが漂っていて、先輩達の絵がいくつか飾られていた。私もここで絵を描けるんだ。「まぁ、ちまちま説明するより、ここのことを知ってもらうには実践するのが1番よね。」
「きっと今日来てくれた君たちは水彩画や油絵を描きたい人の方が多いと思うんだけど、入部してから半年間はデッサンを中心に描いてもらいます。」先生はそう言うと私が楽しみにしていた絵の具ではなく、鉛筆と練り消しを持ってきた。デッサンという単語は初めてで、私は少し不安になった。
デッサンとは、鉛筆を使い物を模写することらしい。その日は2時間ずっと立方体をデッサンしていた。絵の具が使えないことに最初は少し肩を落としたが、絵を描くことは私が思っていた以上に楽しかった。今日は立方体だけだったけど、もっと色んな絵が描きたいし、上手になりたいと思った。
顧問の先生は最後に言った。「デッサンは絵の基本、貴方達の幹になるものです。デッサンが上手になる方法知りたい?」私たちがコクリと頷くと先生はうふふと笑いながら言った。

「お気に入りの鉛筆を見つけることよ。」

自分が使いたいと思う鉛筆を見つけるのは私にとっては簡単だった。




走って家に帰り、今日のことをお母さんに話した。話しているとまた絵を描きたくなって、気づいたら引き出しから鉛筆を取り出して削り、絵を描いていた。中学生からはもう使わないと思っていたこの鉛筆は、やっぱり使いやすかった。

お母さんに呼ばれた私は鉛筆をまた、筆箱の中に入れた。

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さくらしめじ
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