婚家のお父さん(食はくるくる まわる)
すぐ 近くに住んでいる 婚家のお父さんが、自転車に乗って、大きなお弁当をひとつ、届けてくださった。
風に吹かれるようにきて、「腰が痛うてかなわん」と言って、お弁当をくださると、また ふーら ふーらと 自転車で帰っていかれた。
角を まがる後ろ姿に、「ありがとうございまーす」と もういっぺん、声をかけると「はい はいー」と 気楽な返事が、有り難い。二月にチョコレートを持っていったお礼か とも 思う。りっぱな紙が かけてあったから、地域の 喜老会のものだと 思う。
包みをほどきながら、「お弁当、お母さんと 半分こ に 食べて、ひとつ お裾分けしてくれたのかなぁー」と いうと、夫さんは「もう そんな 食べられへんのやろう」と のんきに 言う。ちょっと 心がしょんぼりした。でも、おいしそうなお弁当をみると、心はうきうき。
夕方から 実家へいくと言う夫さんに、お土産をもっていってもらうことにした。伯母さんのお見舞いのために買ったけど、渡せず、もって帰ってしまった干菓子。
いま、病院では 面会も、食べものの差し入れも できなくなっているから、お菓子が 戻ってきてしまう。そんな噂も耳に入って、その日は 靴下も買っていた。とても可愛らしい靴下が 二足、伯母さんのところへ渡っていって、オレンジと 濃いピンクの入った一足を、私がもって帰った。お守りみたいに いまも、はいている。
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わがやへ来た 大きなお弁当は、とても おいしかった。三人ぶんに分けられて、少しずつ 食べものが減って、きれいに 空っぽになってしまうと、プラスチックのトレーの 美しいことに 驚く。ごみにすることを ためらいながら、ひとまず洗う。
草ソフトボールへ 出かけていたむすこも、帰ってくると、お皿に取り分けた 三分の一のお弁当を、ぱくぱくと 食べた。いつものように、好き嫌いをより分けながら。おじいちゃんの思い出話なんかも しながら、ぱくぱくと。
夫さんにきくと、実家では、お父さんと お母さんが、お菓子をぱくぱくと 食べてくれたそうだ。夫さんは、きかないと 話さない。むすこは、きくと 話さない。
婚家のお父さんは、ずーっと話していて、話し終えると さっと いなくなるタイプ。だから、顔をみて 話したくなる。久しぶりに来てくれて、心配よりも 嬉しさが まさった。生家の父は、ずーっと黙っていて、だいたい、ずっと いるタイプ。だから、いまも なくなったことを ときどき、わすれる。