マットのまいちゃん①
池袋東口。
サンシャインの少し手前、小料理屋が立ち並ぶ小道の入り口脇にそのマットヘルスはあった。
今からおよそ20年前。まだ店舗型風俗店が規制されていない頃の話。当時の池袋東口は今では想像できないくらいファッションヘルス店が立ち並んでいた。
その中でも比較的有名なマットヘルス。
そこに、まいちゃんは在籍していた。
9月。まだ少し暑い。
仕事を休みにしていたが、平日の昼間に遊んでくれる彼女も友達もなく。当て所もなく池袋に来ていた。
メシには困らない繁華街だ。
ゲーセンもある。大きな本屋もある。
しかし、自分の足は以前に一度行った事があるマットヘルスに向かっていた。
まだ11時にもなっていない。陽の光さんさん。
健全なのやら、不健全なのやら。
マットヘルス店のドアをくぐり、階段を数段登ったところが受付だった。
予約も本指名も無いことを伝えると、数枚の写真が提示された。当時のお店のHPで得られる情報は女の子の名前、年齢、スリーサイズ程度。写メ日記なんて当然無い。2ちゃんねるの掲示板はあったが、オキニ隠しの嘘情報とNG客の恨み言、それに誰が基盤・円盤出来るだなんてくだらない事だらけ。(ネットの掲示板に生息してる奴ら…まったく成長してないな…)
店頭でモザイク無しのパネルを見る事が、手っ取り早く好みの女の子を見つけられると思っていた。
カウンターの写真に目を落とす。
前回写真指名した女の子はいない。
一枚の写真が目を引く。
源氏名は「まい」。
他の女の子の写真はそれっぽい衣装にきっちりメイク、プロのカメラマンに撮ってもらったと分かるものだった。
その女の子の写真だけチェキのような素人が撮った普段着の写真だった。ピントも少しボケている。
他の女の子はだいたい20歳前後、まいちゃんだけ20代半ば。風俗の年齢表記は有ってないようなものなので特に気にはしない。
なぜかそのピンボケの写真が気になった。
可愛さと綺麗さの雰囲気をなんとなく感じ取っていた。
バストサイズを示すFのアルファベットにときめいたのも事実ではあるが。
まいちゃんを指名する旨をスタッフに伝える。
「11時のご案内になります。」
60分コースの料金を支払い、待合室に通される。
先客はいない。
テレビの情報番組をぼんやり見ながら待つことにする。
後から待合室に入って来た客が先に呼ばれる。
予約でもしていたんだろう。
2〜3人に抜かされ、11時30分に近づいたところでスタッフがこちらに話しかけてきた。
「まいさんの到着が少し遅れていまして、別の女の子に変えますか?」
別に午後の予定があるわけでもないので、このまま待つと答える。
そのまま待つ事30分。タモさんのお昼の番組が始まってしまった。
さすがに遅いので、今度はこちらからスタッフに声を掛ける。
本人と連絡は取れていること、こちらには向かっていること、だが到着の見込みは分からないことの3点が回答だった。
どうしたものかと思考を巡らせる。
1.キャンセルして抜き無しで昼飯を食べて帰る。
2.さすがに別の女の子に振り替える。
3.こうなりゃ根比べだ、このまま待つ。
1はもう何をしに池袋まで来たのか分からない。
2は……振り替えになった女の子があんまりいい気分じゃないだろうと思うので無し。
答えは3だ!
こうなったら意地でもまいちゃんに会ってやる。
本人に出勤する意思があるのなら、こっちもとことん待ってみよう。謎の頑固さが出てしまった。
待合室に戻りタモさんの番組を見る。
タモさんから小堺さんに司会のバトンが渡され、その小堺さんの番組も終わった頃に、スタッフから呼ばれる。
「今、まいさんが到着しまして準備をしていますのでもう少しお待ちください」
ああ、まだなのね。
しかして、それから20分ほど。
「お待たせしました。ご案内いたします。」
受付カウンターの奥を曲がった、階段の昇り口のところに彼女はいた。
「たいっへんっ!お待たせしましたっ!!」
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というわけで始まりました。
「マットヘルスのまいちゃん」との思い出を数回に渡って綴っていこうと思います。
20年くらい前の記憶の穴埋めと、本人特定回避のためフィクションというかフェイクを交えながら、されども実話ベースで書いていきます。
20年経っても忘れられな事がいくつもあります。
ちょっと変わった風俗嬢と拗らせ非モテ男子のエピソード。
お時間がありましたら、どうぞお付き合いくださいませ。
それだは、また。