マットのまいちゃん②

このお話は個人的な思い出補正と、
個人特定回避のフェイクを含みます。
フィクションとノンフィクションの狭間を
どうぞお楽しみください。

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「たいっへんっ!お待たせしましたっ!!」

受付カウンター奥を折り返した階段の昇り口で、深々と頭を下げる女の子から元気よく放たれた第一声。

トップギアの謝罪にちょっと面食らう。

女の子が顔を上げると、申し訳なさの色がたっぷりの笑顔があった。

「まいです。お待たせしてすみませんっ!」

……

写真と違う

いや、違わない

ピンボケの写真から感じた雰囲気は間違いない

写真よりも数段綺麗な女性がそこにいた


「お部屋、ご案内しますね」

こちらの横に立ちスルリと脇から手を入れ腕を組む。階段を昇り、導かれるまま彼女の部屋へ通される。扉を閉めた彼女が再び自分の前に立つ。

「改めてまして、まいです。今日はご指名ありがとうございます。」


「そして、長時間お待たせしてごめんなさい……。」


階段での挨拶とは打って変わった細い声での謝罪。さっきはスタッフの前もあって無理して声を張っていたんだろうと想像がついた。怒鳴られても仕方がない、それほどの大遅刻。

彼女の中ではそうなのだろうが、こちらには実はあまり怒る要素がない。特に予定が詰まっているわけでもなく、「いいとも」と「いただきます」を見ていただけなので。強いて言えば、ドリンクの1本くらい欲しかったかな程度。


終わった事だし、こうして無事に会えたのだからもう謝らないで欲しいと伝える。
気まずくなりに来たわけではないので。

「これで最後!本当にごめんなさい!」

もう一度だけ謝った後、彼女の表情がやっと明るくなった。

「ああ〜。怖い人だったらどうしようと思ってたんですよぉ。」

少し素顔が見えてきた気がする。

「ちょっとくっついてもいいですか?」

正面から軽くハグ。

「優しい人でよかったぁ。」

安堵の声が漏れる。

「なんで何時間も待ってくれたんですか?あ、それよりシャワー行きましょうか。お洋服失礼しますね。」

気持ちが切り替わったのか上目遣いで質問……と思ったら脱衣アシストに移行する。まあ、時間も無いし。しかし、美人に密着で上目遣いをされると…。

「いま、大丈夫そうです!」

個室の扉を少し開けて外を覗きながら彼女が言う。シャワールームはフロアに一つ。他の部屋の人達とバッティングしないように気をつけないといけない。

裸の2人がバスタオルを巻き、個室を出てシャワールームに入る。ひと通り洗ってもらった後、自分が先に個室へ戻る。少しあって彼女も戻ってくる。

「さっきの続きなんですけど、なんで私のこと何時間も待ってくれたんですか?」

問い掛けて
キスで口を塞ぐ
矛盾した行為

私を傷つけるようなことは言わないで
そんな牽制なのだろうか。

こちらは毛頭そんなつもりは無い。
唇が離れたタイミングで正直に答える。

写真でどんな女の子か気になったこと。
今日の自分は特に予定が無いこと。
お店に着いた時に指名客がいなくなっていたら、何のために来たんだろうという気持ちになるんじゃないかと考えたら待つ以外の選択肢は無かったこと。

「そんなの気にしなくていいのにぃ。それより、あのボケボケの写真で?指名?ホントに?」

胸の大きさもあったことを付け加える。

「んふ、そうなんだぁ。大きいおっぱい好き?自慢のGカップ堪能してもらわなくちゃ!」

あれ?写真にはFって書いてあったような。

「最近、成長してGになりました!」

腰に手を当てて、へへんと胸を張ってみせる。
自慢と言うだけあって形も張りも素晴らしい、まさに絵に描いたようなバストだった。


打ち解けてきたのもあってか、彼女の印象がずいぶん変わって来た。
端正な顔立ちや整ったプロポーションは美人と表現すべきなのだが。
クシャッと笑う笑顔や一つひとつの仕草、少し甘ったるく伸ばす語尾からは可愛さが溢れていた。


短時間でこうも印象が変わるのか。


気になっていたので、こちらも質問をした。
遅れた原因は何だったのかということ。

「あ〜、実はですねぇ。」

急にモジモジしながら続ける。

「原付の鍵をメットインの中に入れて閉めちゃいまして…。」

!?

「原付のシートのとこからメットを出して、そこにバッグを入れたんです。」

「で、エンジンかけようとして気付いたんです。原付の鍵をバッグから取り出していないことに…。」

「なんとかメットインのところを開けられないかと、その原付を買ったバイク屋さんに行く事にしたんです。近いと思ったので。」

!?

「でも動かない原付を手で押しながらだと時間がかかっちゃって。」

「やっとバイク屋さんに着いたんですけど、そこじゃ鍵は開けられないって言われて。」

「でも!バイク屋さんが親切で!カギ屋さんを電話で呼んでくれたんです!」

!?

「なかなかカギ屋さんが来なくて…。お昼も過ぎちゃって今日の出勤は諦めようかと思ったんです。」

「ちょうどそのタイミングでカギ屋さんが来てくれて!」

「けど、なかなか開かないんです。」

!?

「最初に閉めちゃったときに自分で開けられないかなと思って、髪を留めていた細いヘアピンで鍵穴をぐりぐりしちゃってたんです。」

ぐりぐり!?

「その時に鍵穴を壊しちゃったみたいで、こじ開けるしかなくて…。」

「バッグとカギは無事に取り出せたんですけど、今度はシートがちゃんと閉まらなくなっちゃって。(笑)」

笑い事ではない

「結局、原付はそのままバイク屋さんに修理に預けて、私は電車で来たんです〜。」

肩をすくめて小さく舌を出す。


テヘペロじゃないんですが。


「こんな事なら最初から電車で来ればよかったなーって。」

うん、そうだね。


ピンボケの写真から想像以上の美人が現れて、
でも話し始めてみると思ったよりも可愛くて、
そしてポンコツ強めのエピソードが飛び出した。




短時間でこうも印象が変わるのか!!

(続く)

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