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おたまをなくしたはなし。
よーし、久々に食欲も湧いたしカレー作ってみたぞ。
いい感じ、えーっとじゃあおたま出して…。
あれ?引き出しの一番上におたましまってたと思うんだけど、2段目かな?あれ?ねーな。
うわ、3段目なんかつまってる、あかねー。ここか?
かてー。なんかかてー。
カテーテル。カテーテル麻紀、なんちゃって。
あーおもんないこと言ったー。カテーテルまでで止めとこうと思ったのにー思いついたけど言わないでおこうと思ったのにー。言っちゃったー。
あ、あいた。え?ないじゃん。まじけ。
カレー作ったのにおたまがないことがあるかいー!
途中で「あら、お肉買うの忘れたわ」とかならわかるけど「おたま忘れたわ」ってエプロンのまま駆け出す奥様があるかーい!
どーしよー。いまからおたまだけ買いに行くのめんどくさーい!でもカレーをちょっと大きめのスプーンとかでよそうのもいやだー!
あ、なんかちっちゃいおたまみたいなやつある。なにこれ、こんなん持ってたっけ。そもそもこの小さなおたまみたいなやつってなんのために存在してるの?あくとかとるやつかな?まぁないよりまし。これでええか。
そんなこんなで1年間小さなおたまを駆使してカレーなどをよそってまいりました。
色々事情ありまして昨年4月から6月中旬ごろまで実家にいたのですが、そこから帰ってきてカレー作ったらおたまがありませんでした。それはそれはひっくりかえるくらいおたまがありませんでした。「ひっくり返すのはわたしのお仕事よ!」あぁ、ごめんなさいフライ返しさん。
そしたらなんかよくわからんちいさいおたまがありまして、それで1年過ごしました。
うちのキッチンは4畳ほどある大きめのキッチンでした。とはいえ、キッチン用品がなくなったときに探すところなんて限りがありません?お店で10品限定!みたいな貼り紙してた時なくなってるものなのかまだあるのかわからなくて頼むか迷いません?ありますか?って言ってあったらあったで人気ねぇのかな、まずいのかな、って思うし、なかったらなかったでなかったときのやつ考えないといけないし。
あえて話を逸らしましたが、キッチンには引き出し4つとあとなんか開くタイプの扉が3つ。全部あけてみたけどなかった。
財布とかならどこかで落としたかも!ってなるけど「おたまがない!さっきのスーパーで落としたかも!」なんてことはない。
なぜならおたまを持ち出すことなんてないからだ。みなさんのなかにおたまを持ち出してそのまま忘れて帰ってきたひとがいますか!?(反語)
そんなわけでおたまがないわけないのだ。でも、引き出しのなかも、冷蔵庫のなかも探したけれど見つからないのだ。
「まだまだ探す気ですか?」これは…。井上陽水がダンスに誘ってくる予感がする。
「ホテルはリバーサイド」もう一人の井上陽水がホテルにも誘ってくる。これはとんだ陽水だ。
そもそも冷蔵庫なんかに入れているわけはないのだ。
「こんなとこにいるはずもないのに」かつてまさよしも、そんなことを言っていたような気がする。
そんなわけでおたまがみつからないまま時が過ぎた。おたまなんて新しく買ったって100円で買える。正確には110円(税込)私をバイトの面接で落とした100円均一がうちの近くにあるから、そこで買えばいい。
でも割とその小さいおたまで事足りたので買わなかった。
ご存知の方も多いかと思うが最近引越しをしたので家のものを全部出してダンボールに詰め込んだ。夢も、希望も、おたまも…。
いや、そこにおたまはいなかった。
とうとう、おたまは私の前に姿を現さなかったのだ。
私は引越してからキャンドゥに行った。キャンドゥは都会にしかない。いや、知らないけど。知ってる限り高知にはなかったし、愛媛でもまつちかにだけあったのでそうなのかと思ってた。私は幼少期、キャンドゥのあった場所にあった駄菓子屋で、お菓子を買ってもらうのが好きだった。あの思い出を返せ、キャンドゥ。
そんなキャンドゥにはおたまがいた。だがどいつも前にいた深底おたまちゃんではないし、安っぽくて少しエッチなショッキングピンクの取っ手でもない。
私はふつうの深さで白い取っ手のおたまを買った。
あのおたまはどこに行ってしまったのだろう。
猫は死顔を飼い主に見せないといい、実際、実家の猫は家に人の少ないときや早朝に亡くなることが多かった。
おたまもそうなのかもしれない。
あのおたまはいつのまにか私の手を離れ、知らないところでおたまとしての役割を果たし終えたのだ。
3年間。それは100円(税抜)で買ったにしては使いすぎだったかもしれない。プラスチックがカレーの色に少し染められたこともあった。失敗した料理をよそってくれたこともあった。
ありがとうも言わないままに、おたまはいなくなってしまい、私は新しいおたまを買った。
カテーテル麻紀!ってやったときにちょっと首が曲がってしまったあの小さなおたまもいる。
新居での暮らしには、あのおたまも一緒にいて欲しかったなぁと思う。
おたまは私の手から離れたが、これからは新しいおたまとともに素敵な料理生活を送っていきたいと思う。
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