2020.12.21 テツ
僕はバンドをやっていた。
メンバーは僕(6弦引き)、太鼓叩き、テツの3人だった。紛れもなく、その3人だった。
下手くそなウタ、走るビート、合わないリズム。
それはもう、ダサい。見てられない。聴いてられない。笑われるのもわかる。
ただ、やっているぼくらは、最高の二文字だった。
*
太鼓叩きとは、小学校からの幼馴染みだった。
テツと出会うのはずっと後だった。
二十歳だっただろうか、太鼓叩きの友人を紹介してもらったきっかけだ。
テツは、いつも笑顔で、僕より元気で、やっぱり何と言っても、笑う。笑う。その180cmの巨体は笑う。高い声で笑う。
その笑顔が好きだった。今でももちろん大好きだ。
テツがアホなことを言い、太鼓叩きが冷たく遇らい、僕が止めるような仲。
境遇が全く違う3人。生まれも違う3人。感受性もあり得ないほど異なる3人。
ただ、息は、誰よりも合った。驚くくらい。
なんでもよかったんだ。
僕は、正直音楽は好きじゃない。嫌いとは言わないが、好きではない。
ただ、日常に感じるどうしようもない、行き場のない、救われない、ただ、ただ死んでいくこのぼくたち三人の想いを、その想いを表すツールが音楽だっただけだ。
なんでもよかった。
それでも、ぼくが掻き鳴らし、たいこたたきが骨を創り、テツが脈を打つ、このぼくたちの、ぼくたちだけの、ぼくたちのためのおんがくが、世界を変えることを祈りながら、ぼくは唄った。
声を枯らし、涙を流し、唾が飛び散り、想いも届かず、ただ唄った。ただ掻き鳴らした。ぼくたちは掻き鳴らした。
*
そんな、テツが、遠くに行ってしまう。
僕も故郷を捨て、遠くに来た。
そうだ、ついに全員離れ離れだ。
物理的な距離は、驚くくらい離れている。
ただ、心はそこにある。
唄は続いていく。
死なない。
ただ、生き続ける。
ぼくたちが生き続ける限り。
いや、死んでもなお。
唄は続いていく。
ぼくたちは、出逢うべきして、出逢い、唄を唄い、音を鳴らし、笑い、明日に震え、明日に恐れ、それでも、それでも、それでも、情けない、ぼくたちの歩き方で、今日まで歩いてきた。
きっとこれからも、ぼくたちのとなりに、ふたりはいない。
ただ、おなじ目標に向かい、歩き続けるだろう。
死ぬまで。
死んでも。
2020.12.21 テツ
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