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【名医取材記#15】大規模災害が起きたらどうする! 若手外科医が激減している深刻な話

なにをもって名医するか、理想の医師像とは

『国民のための名医ランキング』編集部です。いつも取材記を読んで頂きありがとうございます。今回は、医師の「働き方改革」で日本の医療が激変していくかもしれないという話です。
まず、皆さんは名医と聞くと何を思い浮かべますか。黒澤明監督の映画に『赤ひげ』というものがありました。赤ひげ先生は医師としての能力が高いだけではなく、人情味が溢れ、地域の皆さんが尊敬する名医でした。これは一つの名医像だと思います。または、テレビで紹介される超難関な手術をこなす「スーパードクター」や原因不明の病気をズバリ言い当てる総合診療医「ドクターG」の姿もあります。
人によって名医の姿はそれぞれですが、『国民のための名医ランキング』では名医の選定基準を設けています(最新版の名医ランキング8ページに掲載)。何をもって名医とするかは大変難しい問題で、正直に言って手探りではありますが、一つの提案として選定基準を公開していますのでご参考になって頂ければと思います。
名医の基準については、様々な意見があることは承知していますが、やはり医師も人間である以上、診断力や技量、治療方針の構築にまだまだ個人差があるというのが編集部の基本的な立場です。これは取材した医師らも認めていることであり、編集部に届く患者さんの体験談で実感しているところでもあります。

時代によって変わっていく名医の姿

この名医のイメージも時代と共に変化をしています。「日々、激務の中で寝る時間もなく働き、超難関な手術に挑む」という外科の名医像があります。
しかし、これはもう時代遅れのことなのかもしれません。医師の世界も「働き方改革」が進み、きちっと休養をとりながら仕事にメリハリをつけ、力を発揮できるような環境づくりをすることが求められています。その為には、医師だけではなく、医療関係者の待遇の改善が必要です。多くの国民は、医療関係者の報酬や待遇アップのために医療費を上げることに反対はないと思います。
また、以前のように特定の「名医」といわれる個人に依存することなく、チーム医療として関係者全員でお互いをサポートをしながら治療レベルの向上、均てん化をすることが求められています。将来はAIによるサポートが大きな役割を担うでしょう。
しかし、現状ではまだまだ、医師や医療関係者個人の絶え間ない努力によって日本の医療は支えられています。チーム医療の時代といわれていますが、結局はチームのリーダーの能力がその診療科のレベルを決定します。たった一人の医師が異動したことで、評判が良かった病院があっという間に様変わりすることはよくあることです。
また、地方の医師不足は深刻で、構造の改革が進むことなく、医師個人の「頑張り」によって支えられているのが現状です。もっとも、近い将来は人口減で「患者不足」になるという統計もありますが…。

減り続けている若手外科医

そもそも現在は「スーパードクター」どころか「外科医」を目指す若手医師の減少が問題となっています。『日本外科学会』によると、若手外科医の減少の理由を以下のように指摘しています。
1.外科医は専門医資格を取得するのに時間がかかり生涯労働期間が短い事
2.勤務時間が長い事(ワークライフバランスが十分に考慮されていない事)
3.給与が勤務量に見合っていない事
4.医療訴訟のリスクが高い事
5.女性医師への配慮が乏しい事など

特に減少が著しいのは外科と小児科で、 1994年から2020年においては 小児科医は1割台後半、外科医は3割 近くも減少しています。

そこで解決策としての目玉は、なんといっても「働き方改革」です。さらにロボット手術(ダビンチなど)などによって、かつては名医のみが対応できた手術の技術をいち早く取得するできることも期待されています。
しかし、取材した多くの名医はロボット手術に関して、その進化を賞讃しつつも問題点を指摘しています。それは、ロボット手術といっても、結局はそれを操る術者の技量が問われることになり、やはり個人の技量に相当の差がでることには変わりがないということです。
もう一つ、深刻なことは、ある肝胆膵外科の名医が言っていたことで「ロボット手術に慣れた若手医師は、予想できなかった大出血などに対応ができない」という指摘です。大規模な開腹手術を経験していない若手医師は、緊急時の対応ができない可能性があるということです。

大規模災害で求められる救急医と熟練外科医の底力

緊急時といえば、「大規模災害」についても心配になります。大地震など大規模災害(有事を含めて)はいつ起きても不思議ではありません。その時は命の危機となる大ケガ、火傷など、救急医や外科医がいなければ対応できない患者があちこちで溢れかえります。ロボット手術どころか病院自体の電気もおそらく止まるでしょう。大規模災害では病院のライフラインがすべて断絶されるのは当然ありうることです。救急の患者が押し寄せ、入院患者の対応も含めて、病院は大パニック状態となることが予想されます。
その時、十分に訓練された救急医や外科医は、はたして足りているのでしょうか。重症でなくとも基本的な出血を止めるなどの外科的治療を受けることは本当に可能でしょうか。「なんで誰も助けに来ないんだ!」と叫んでもその時はもうあきらめるしかありません。
このまま若手外科医が減ることを本当に深刻な問題として国民全体で考えなければならないと思います。

かつて取材した世界的な肝胆膵外科の名医が言っておりました。
「競争が激しく、時間のかかることを汗水たらして夜中までバカになってやる、そういう医者は減ってしまった…進取の気性があって努力し、人がやらないことをやる。そんな名医はこれからいなくなる」

先人たち名医の自己犠牲の精神、努力には本当に頭の下がる思いです。しかし、そのような医師個人が生活と家族を犠牲し、リスクのある極度の緊張状態で手術や治療にあたる時代は終わるときがきたのかもしれません。

その一方で、やはり「医師(先生)」という特別な職種においては、いつの時代も変わらず「何かあった時には頼れる存在であってほしい」という人々の願いは強いと思います。
結局、究極の場面では経験豊富な医師としての「現場力」が緊急時、災害時医療の底を支え、最後の砦となるはずです。
医師の「働き方改革」と「医療レベルの維持・向上」の両立はまさに緊急の課題です。

『国民のための名医ランキング』は日本全国どこでも、より高度な医療が提供されることを切に願ってより国民全員(医師も含めて)のためになる情報を掲載しています。皆さまがより良い方向に進むことを心よりお祈りいたします。
全国の名医を探す取材は続きます!