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英語の前置詞(その6 OF)

英語の前置詞について
( その6 OF )
by SAKURAnoG
 
皆さん、こんにちは。今回で「英語の前置詞について」も最終回になりました。最後の回は前置詞「of」です。
【OF】
「of」の原義を[WISDOM]では、次のように説明します。
(引用)
『原義は「分離」で、今ではoff が主にその用法を受け継いでいる。そこから、「原因」、「行為の主体」を表す用法が生まれ、後者から「性質・特徴」などを表す用法に発展し、「物・人への帰属」、「集合」、「同格」などの用法に広がった。』
(引用終わり)
(WISDOM: ウィズダム英和辞典 第4版 三省堂 2019、以下WISDOM)
そして、Curme(注1)は、「of」がその機能の多くを引き継いだ「属格」について、その本来の語義は、はっきりしないものの「in a sphere」(ある領域で) ではなかったか、と言います。
(Curme 13 3 P110)
前回のコラム「for」では、「与格」と「for」の関係について説明しましたが、同様に、「属格」の機能の多くを「of」が引き継いで今日に至っています。Curmeは「属格」の機能を持つ「of」を「prepositional genitive (前置詞付き属格)」(訳:筆者)と呼びます(Curme P70)。この点を踏まえて、この稿では必要な場合以外は「属格」と「of +名詞」を特に区別せずに論じていきます。
〈この項に限らず、筆者が「属格」という場合は、いわゆる「所有格」だけでなく、「of句 [of + 名詞など] 」=「前置詞付き属格[Prepositional Genitive])」も含みます〉
(注1)(Curme ‘SYNTAX’ Maruzen Asian Edition 1959, copyright 1931 by D.C. HEATH AND COMPANY, BOSTON, published by MARUZEN COMPANY LIMITED, TOKYO 以下「Curme」)
 
目次
1.「同格のof」(Appositive Genitive)とは何か?
2.修飾語としての「of」(Attributive Genitive)
3.述部としての「of」(Predicate Genitive)
4.動詞と結びついた「of」
5.形容詞と結びついた「of」
6.主語を表す属格
7.目的語を表す属格
8.「of」は「の」ではない
 
1.「同格のof」(Appositive Genitive)とは何か?
辞書や参考書には、必ず「of」に関連して「同格」という項目が設けられていて、一例をあげると、次のように説明されています。
(引用その1)
「the Japanese capital of Tokyo 日本の首都東京」(筆者注:直訳は「東京という日本の首都」
(引用その1おわり)
[Genius※ 【OF】③[同格]a)[the A of B]BというA P1345]
(※ジーニアス英和辞典 第4版 大修館書店 2006、以下「Genius」)
(引用その2)
「名詞の働きをする語句が2つ並んで、後ろの語句が前の語句の、言い換え・補足・内容説明などになっている場合、後ろの語句は前の語句と「同格」である、という。」(注2)
(引用その2終わり)
(注2)She was an angel of a girl(=a girl like an angel)(天使のような女の子)[英文法解説 江川泰一郎 金子書房 改訂3版1991 §277.Of―2(5)同格関係]
 
実はこの「同格」(Apposition)という訳語には、多少問題があります。どういうことかというと、「Apposition」という語には「同格」というような意味は全くないのです。
詳しくは、別途「同格のofとは何か?」といったタイトルでさらに詳しい記事を書く予定ですので、そちらで解説しますが、本来の用語「Apposition」は「並置」(並べておくこと)という意味です。
「同格」という用語は、理解の妨げになると思われますので、本稿では「同格」という言葉を使わずに、すべて「並置」という用語を使っていきます。それからいわゆる「所有格」もしくは「of + 名詞」については、「属格」と呼びます。
したがっていわゆる「同格のof」は筆者流に言えば「並置の属格(Appositive Genitive)」となります。少々わかりづらいかもしれませんが、我流を押し通しているのではなく、「同格のof」の本質を理解するために必要だからという思いによるものです。
 
本稿のスピンアウト編「同格とは何か?」も読んでみてね
(近日中掲載予定)
 
2.修飾語としての「of」(Attributive Genitive)
いろんな種類がありますが、代表的なものをあげます。
A) 根源・出所の属格(Genitive of Origin)※
the son of the king (「birth(生誕)」)
Shakespeare’s works (「generation(生成)」)
※このofの用法が、ラテン語で「genitivus(=generation or birth)」と呼ばれ「Genitive(属格)」の語源となりました。
(Curme 10 Ⅱ 2A a)
B) 材料・構成要素の属格(Genitive of Material or Composition)
a crown of thorns(いばらでできた冠/いばらの冠)
a swarm of bees(一群れの蜂)
C)特質の属格(Genitive of Characteristic)
children’s clothing(子供服)
a matter of considerable importance (かなり重要なことがら)
D) 単位の属格(Genitive of Measure)」
a three hours’ deláy = a delay of three hóurs(3時間の遅れ)
a month’s rént(1か月の家賃)
E) 部分の属格(Partitive Genitive):
one of my friends (友人の一人)
the leg of the table (テーブルの脚:所有の属格ともとれる)
He is something of an adventurer.
(彼はひとかどの冒険家だ)
This gave us a taste of what was to follow.
(これでこれから起きることを少しだけ経験できた)
「a taste」は「短期間の経験(a brief experience of something)」という意味です。
F) 所有の属格(Possessive Genitive)
my brother’s house
The force and clearness of what was said depended so much on how it was said.
(発言の説得力と明確さは、どのような言い方をしたのかということによってほぼ決まった)
「what was said(発言)」が持つ「force and clearness(説得力と明確さ)」(所有)という感覚ですね。
G) 並置の属格(Appositive Genitive):
いわゆる「同格のof」と言われているものです。
We are not investigating the question of whether he is trustworthy.
(われわれは、彼が信頼できるかどうかという問題を調査しているのではない)
(Curme 23 1 P200)
「問題(question)」の内容をof 以下の並置節が限定・説明しています。
3.述部としての「of」(Predicate Genitive)
「of」は後ろから名詞を修飾するだけでなく、copula (連結詞、繋辞=be, seem, feelなど)
とともに特徴、起源、所有、材質、などを表して、文章の述部(注3)として機能します。(Predicate Genitive) (叙述の属格[訳:筆者])
This matter is of considerable importance.
(この件はかなり重要だ)
We are of the same age.
(僕らは同い年です)
昔は、属格がそのまま使われていました。次は聖書からの引用です。
Render therefore unto Caesar the things which are Caesar’s, and unto God the things which are God’s. (Matthew, XXII, 21)
(「では、皇帝のものは皇帝に、神のものは神に返しなさい。」[聖書協会共同訳]マタイによる福音書/ 22章 21節)
(Curme 7AcP35)
特徴を表す「of」の場合、しばしば「of」が脱落することによって、続く語群を複合形容詞化します。
It’s [of] no use. (それは役に立たない)
Don’t be [of] any trouble to him. (彼のお荷物にならないようにしなさい)
述部としての「of」は、上記のようなcopula(連結詞)を伴う「補語」だけでなく、show, make, regardなどの動詞の目的語にもなります。(「Objective Predicate Genitive」[目的語となる叙述の属格][訳:筆者])(注4)こちらも同様に「of」が削除されることがあります。
He painted the door (of) a green color. 
(彼はドアを緑色に塗った)
Regardなどは「as」を伴って次のような「叙述の属格」(Predicate Genitive)を従えます。
I regard this as of great importance. 
(私はこのことが極めて重要だと思います)
(Curme 7AcPP35-36)
 
(注3)述部というのは、文の主要素のうち主語をのぞいた部分で、主語について述べる(叙述する)語または語群のことを言います。
(注4)参考書などには「目的格補語」などと説明されますが、目的格ということは動詞の「目的語」ということです。「He painted the door (of) a green color.」といった場合の「of」は、属格を表す「機能語」として本来の意味を失っています。なので、ここは「a green color(属格)」が目的語という感覚です。ここは一般的な学校文法とは異なる点で、動詞の目的語になる名詞相当語句は「目的格」のほかに「属格」、「与格」があります。(次項参照)
 
4.動詞と結びついた「of」
今は、動詞の目的語は目的格しかありませんが、古英語の時代、動詞は「対格(=目的格)」だけではなく、「属格」や「与格」を取っていました。そして、その名残が前置詞となって今に伝わっているのです⇒4-1.与格の例、4-2.属格の例
(Curme:prepositional genitive[前置詞付き属格], prepositional dative[前置詞付き与格])。
そしてそれらの前置詞は、もともと「格」の一部であり、今では、意味を持たない機能語(「格」を表す標識みたいなもの)として生きながらえているのです。
そして一部の前置詞の中には、いまや動詞と緊密に結びついて、切っても切れない仲に発展したものがあります。それらは、「前置詞」というよりも動詞の「後置詞」となって自動詞の他動詞化に一役買っています。(Curme 11 2 P99)これらのセットになった動詞は「句動詞」または「群動詞」と呼ばれています。たとえば、「depend upon」「laugh at」「talk over」などです。
これらは一体となって自動詞の他動詞化を形成します。他動詞である証拠に、その目的語を主語にした受動態を作ることができます。
Everybody laughed at them(them:「laugh at」の直接目的語).
⇒ They were laughed at by everybody.
余談ですが、これらように、「前置詞」が受動態や関係詞節などで一見置いてけぼりにされたように見える現象(「laughed at」の「at」)を「前置詞の後置」と呼び、ひとかどの文法的な話題として取り上げられています。
 
4-1.与格の例: believe, please, help, thank, などは目的語に「与格(for/ toなどの意味を持っていた)」を取っていましたが、1200年ごろから対格(=目的格)にとって代わられていきます。今では、「believe me [対格](<※ believe to me [与格])」などと言いますね。
4-2.属格の例:complain of, accuse of, deprive of, remind of, rob of, think ofなど
昔は「desire」や「forget」も、属格目的語を取って「desire of」「forget of」と言っていました。現在では属格標識の「of」が脱落してしまいましたが、その名残として、派生した形容詞では今でも「of」を必要としています。「desirous of」「forgetful of」などです。
(Curme P111)
その他にも、属格目的語を取っていた動詞(主に古英語の時代)として、除去系(deprive of、rob ofなど)(脚注)、感情の発露系(persuade of、suspect ofなど[に相当する古英語])、情報伝達系(forget of、remind of [に相当する古英語] など。[今ではforget ofのofは脱落])、があり、そのほか外来系(convince of, inform of, notify ofなど)もあります。外来系動詞については、中英語(1100年~1500年)の時代以降にフランス語から流入、もしくはラテン語から借用してきたもので、おそらく単語と共にその用法も直輸入されたと思われます。
(脚注)「rob A of B」については、本件のスピンアウト記事で「どうして『rob A of B』はA とBが逆さまなのか?」について、掘り下げて探求する予定です。(近日中掲載予定)
 
また、次の例のように動詞だけでなく、一部の叙述用法の形容詞も属格を要求していました。
5.形容詞と結びついた「of」
afraid of, ashamed of, aware of, capable of, full of, guilty of, proud of, short of, sure of, thoughtful of, worthy of, など、こちらも、感情系、認識系が多数を占めていますね。
 
6.主語を表す属格
節に展開できる「of」を含む名詞句では、展開した場合の節の主語が「属格」で表されます。
I question the truth of the statement. ⇐属格
⇑(節に展開できる「of」を含む名詞句)
(節に展開⇒ whether the statement is true)
⇑(展開した節の主語)
(その陳述が本当かどうか疑わしい)(Curme 20.3 P179)
 
さらに、CHAT GPT から取得した例文を挙げます。
(a)The development of technologies drives economic growth.[=「technologies」が「development」の主語]
(テクノロジーが発展すれば、経済が成長する)
この分では「of」が構成する名詞句は、条件節に展開できます。
⇒ If technologies develop, it drives economic growth.
ここは、「of」句を「~すれば」という感覚で理解すればいいと思います。
 
7.目的語を表す属格
同様に、「of」を含む名詞句が、名詞化した動詞の後に付いてその動詞の目的語を表します:目的語としての属格(Objective Genitive):
I am in favor of the purchase of whatever books you may need. [=「whatever books」が「purchase」(名詞化した動詞)の目的語]
(あなたが必要だと思う本をなんでも買うことには賛成だね [「in favor of」=~に賛成するという意味])
(Curme )
(b) The development of technologies involves significant investment.(テクノロジーを発展させるには、莫大な投資を必要とする)
この「of」句を条件節に展開すると
⇒ If we intend to develop technologies, it involves significant investment.
となります。
ここは、「of」句に「~する/~させるには」という感覚を持てばよりわかりやすくなるでしょう。
下の例では「description」がもとの動詞「describe」の目的語である「how」以下の名詞節を「of」+名詞句として従えています。
c)His description of how he did it is interesting. (Curme 23 Ⅰ P200)
(⇐[He described how he did it] is interesting.)
(どうやってそれをやったのかという彼の話が面白い)
※「His」が「description」の意味上の主語、「of how he did it」が意味上の目的語。
 
上の例は、構文的には、「of how he did it」が「description」に「並置」されている形となっています。(「~という」[並置の代表的な訳]ですね)
上記のような比較的簡単な例文では、「テクノロジーの発展は」と直訳しても理解できますが、そのような「直訳」に慣れてしまうと、ちょっとした応用問題に苦戦します。
この種の「of」の難しいところは、主要語、この場合でいえば、c)「description」が動詞から派生した名詞であること、そしてその動詞が名詞句内で主語や目的語を取っているといったことを見抜かなければいけないということです。
【例示】
わかりやすい例を挙げると、アメリカ16代大統領エイブラハム・リンカーンが南北戦争で戦った兵士への追悼として行った、かの有名な演説(ゲティスバーグ演説)のサビ「人民の人民による人民のための政治」(Government of the people by the people for the people)という言葉ですが、この英語どういう意味でしょうか?
「人民の」って、何でしょう?「人民による」とどう違うのでしょうか? これは「of」を「~の」と訳してしまったために不明確な訳になってしまった事例です。
これは「Government」が「政治」という意味だけではなく「govern」という動詞から派生した名詞で「統治すること」という意味をミルフィーユ的に併せ持っていることを理解しなければ、正しい理解には到達できません。そしてこの「Govern(ment)」が「of the people」を目的語に取っていることを見抜かなければいけません。
詳しくは、筆者のブログ「COFFEE BREAK:リンカーンのゲティスバーグ演説について」をご覧ください ↓
https://note.com/sakuranog/n/n1c05fe87429b
 
8.「of」は「の」ではない
これまでみてきたように、「of」にはいろんな用法・意味があり、単純に「of =の」という図式では、片付かないことがおわかりいただけたと思います。実際、次にあげるように「of」の意味するところは、多岐にわたります。
 
①    並置(同格)のof (~という) 
The hope of his recovery is faint. (彼が回復する望みは、ほとんどない)
(Curme 23 Ⅰ P200)
※スピンアウト稿「英語 同格とは何か?」(近日中掲載予定)
「of his recovery」が「並置(同格)のof 」です。
②「an angel of a girl」に代表される特殊構文におけるof ↓
※スピンアウト稿「英語「AN ANGEL OF A GIRL」の表現について」(近日中掲載予定)
③ 動詞や形容詞と結びついた意味を持たない機能語としてのof
I am fully aware of the necessity of regular exercise.
(定期的に運動することの必要性は十分わかっている)
④「rob A of B」に代表される属格のof(格を表す機能語、「格前置詞」とも呼ばれます)
※スピンアウト稿「rob A of B はどうしてAとBがさかさまなのか?」(近日中掲載予定)
⑤ 主語や目的語になるof
一義的に「の」と訳すのは、危険です。
⑥「two baskets of strawberry」にみられる二義性(分量のof )
この表現には2通りの意味があります。「of」の認識構造がよく表れている例だと思います。
(引用)
「two baskets of strawberries ・・・(a)イチゴ2かご(分)《♦Aが容器を表す名詞の場合は容器そのものを指して「(b)イチゴの入ったかご2つ」という解釈も可》」
(引用終わり)(記号は筆者付記)
[GENIUS【OF】❺[分量・種類]a) [A of B] Aの量のB P1346]
⑦ 叙述を表す属格のof (Predicate genitive)
「I am quite of your opinion.」(君の意見にまったく同感だね)
(Curme 7 A e P35)
などなどです。
 
そしてまた、「~の」も「of」ではないのです。
・オックスフォードの学生 a student at Oxford (University)
・緋色の研究(コナン・ドイルの処女作)a study in scarlet
・シンドラーのリスト(映画のタイトル)Schindler’s list
・デパートの仕入れ担当者 
a buyer for the department store ( Genius ⑤所属)
・リトグリのかれん(アーティスト)Karen from Little Glee Monster
・その過失の責任 responsibility for the mistake (Genius [responsibility] ②)
・離陸の遅延 delay in taking off (Genius [delay] 名 訳:筆者)
・~の違い the difference between the two 二つの間の違い
(Genius [difference] 訳:筆者)
・年齢の差 difference in age (同上)
(以下はすべて「研究社 新和英中辞典 第4版1995」からの引用)
・宗教と科学の戦い  conflict between religion and science
・科学の本 a book on chemistry
・ロンドンの冬 winter in London
・野の花 a wild flower
・首相の私設秘書 a private secretary to the prime minister
・ドアのかぎ a key to the door
・フランス語の手紙 a letter in French
・満開の花 flowers in full bloom
・母の手紙 a letter from my mother

計6回に分けて語ってきた「英語の前置詞について」いかがでしたでしょうか?
書いているうちに「利害の与格」やら「ROB構文」やら「仮定法現在」といったテーマのスピンアウトも発生しました。学校で習った英語の違った側面を垣間見ることができた、といった感想をいただければ、これにすぎる喜びはありません。またいつか、前置詞の不思議な世界でお会いしましょう。
 

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