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英語の前置詞について( その5 FOR 


                          by SAKURAnoG
 
皆さん、こんにちは。いよいよ前置詞もクライマックスに近づいてきました。第5回となります。今回は、いろんな意味を持った「For」、そして「利害の与格(Dative of Interest)」と「For」の関係について語ります。
 
目次
1.「For」の原義
2. クイズに答えてみよう
3.「For」は「~のために」ではない
4.「all」は「すべて」ではない―「For all~」の表現について
5.「FOR」と「利害の与格」について
 
1.「For」の原義
【For】の原義は「(時間・空間)・・・の前に」:「Forward(前へ)」=「fore (前へ) 」 +「ward(向かって)」や「before(空間的に位置・方向について)前に」=「be」+「fore(前に)」です。[WISDOM 【FOR/FORWARD/BEFORE】 P779/790/178]
Curme(1931)は、「For」の原義は「~の方向へ」(direction toward)だったのではないかと言います。(CURME ‘SYNTAX’ 12.1.B b Dative of Interest P106 Maruzen Asian Edition 1959, Maruzen Company Limited, Tokyo, Copyright D.C. Heath And Company, Boston 1931 、以下「Curme」)
いずれにしても、「~の方へ」「~に向かって」というのが、もともとの意味だったようです。
 
2.クイズに答えてみよう
突然ですが、ここでクイズです。
Q1. 次のかっこの中に最も適切な前置詞を入れてください。
(引用)
①    I had eggs (  ) breakfast. 朝食に卵を食べた。
②    I booked a table (  ) six o’clock. 6時に予約を入れた(筆者注:「6時の予約を入れた」の意)。(引用終わり)
(ジーニアス英和辞典第4版 大修館書店2006年【FOR】⑨[予定]〈決まった日時〉にP771、以下「GENIUS」)
[答え] ①:for
初心者の方がよく間違えるのが、ここに「at」や「as」を入れてしまうことです。
「as」は間違いではないのですが、意味が少し違ってきます。
「at」は「at breakfast」という言い方があることから「at」を入れたくなるのですが、「at breakfast」は「(朝食の)食事中に」という意味で、「朝食に」何を食べたかという意味にはなりません。次の例文で確認してください。
(引用)
・My father reads three papers at breakfast. (父は食事中に新聞を3誌読む)
・be at breakfast 食事中である
(引用終わり)
(ウィズダム英和辞典第4版【breakfast】P248三省堂 2019年、以下「WISDOM」)
 
この「for breakfast」の「for」は、まさに日本語の「に」です。
「GENIUS」は「資格」という括りで、「WISDOM」は「認識」という括り方でまとめていますが、どちらもしっくりこない気がします。
(「GENIUS」【FOR】㉕[資格]…として(as)P772、「WISDOM」【FOR】21[認識]…であると P781)
 
②  I booked a table ( ) six o’clock.
[答え] ②:for
2については、「at」にすると「at six o’clock」が「booked」という動詞を修飾するので、予約を取った時間が6時だったことになります。「for six o’clock」の「for」は未来の時間、予定時間を導入します。なので、「6時という時間に向けて/6時の予定で」予約を取った、という感じです。
ここは「for」を語るコーナーなので、すぐに答えが露呈してしまいますが、そんな前提がなければ初心者が結構騙されやすい構文です。
 
3.「For」は「~のために」ではない
「For」を「~のために」と覚えているかたも多いと思いますが、「For」にはいろんな意味があります。そして「~のために」はその意味のほんの一部を担っているに過ぎないのです。
〔GENIUS〕には28個もの分類が設けられています(面倒な人は次の28個はスルーしてかまいません)。
(引用)
①  [目的・目標]…のために ②[準備]…に備えて ③[受取人]〈人〉あての ④[適合]…に適した ⑤[所属]…に雇われて ⑥ a)[追及・獲得]b)[形容詞の後で]…を求めて ⑦[受益者][授与動詞の間接目的語に相当する前置詞句を導いて]〈人〉のために||I’ll make a salad for you. (=I’ll make you a salad.) 語法 forは受益者、すなわち利益の受け手を表す.She opened the door for me. (彼女はドアを開けてくれた) 不利益の受け手はしばしばon She shut the door on me. (彼女は私の目の前でドアをバタンと閉めた). ⑧[期間]…の間(ずっと)⑨[予定]〈決まった日時〉に||make an appointment [invite them] for five o’clock 5時に約束をする[彼らを招待する](中略)I’ve booked a table for two for six o’clock. テーブルを6時に二人で予約しました.〈♦最初のforは「二人のためのテーブル」の意→❷〉(筆者注)⑩[機会]〈行事〉の機会に⑪[経緯・記念]⦅米正式⦆…を記念して⑫[距離]…にわたって ⑬[方向]〈ある場所〉に向かって 語法 [to とfor]I took a train to Tokyo. は東京まで列車に乗り東京で下車したことになるが、I took a train for Tokyo. では「東京行きの列車に乗った」というだけで、どこで下車したかは不明。 ⑭[対象](感情・好み・才能・責任などの対象として)…に対して ⑮[賞罰]…の報酬[償い・報い]として ⑯[比例][each, every,数詞の前で]…に対して ⑰[比較・等価][A~Aの形で]あるもののAと別のもののAとを比較すると ⑱[交換]…と交換に ⑲[金額]〈ある金額〉で ⑳[代理・代表]…の代わりに ㉑ a)[原因・理由]…が原因[理由]で b)[原因・理由を表わす名詞とともに]c)[結果]…の結果として〈♦通例、未来形で比較級と共に〉You’ll feel better ~ a break. 休憩すれば気分がよくなるでしょう。㉒[関連]…に関して ㉓[観点]〈人〉にとって(は)㉔[基準]…のわりには ㉕[資格]…として||Ihad eggs ~ breakfast. 朝食に卵を食べた。㉖[相当]…を表して ㉗[支持・賛成]…に賛成して ㉘[不定詞の主語を示してfor S to doの形で]
(引用終わり)
(GENIUS 【FOR】PP770―773 )
(筆者注)「a table for two」は「二人席」の意。GENIUSはとってもいい辞書なのですが、たまに日本語が、ちょっとどうかな?と感じる時があるように思います。「6時に」というと予約した時間が6じだったという意味にもとれますし、また、「二人で予約しました」という言い方は普通にあるのですが、状況次第では「独断ではなく、二人が同席して/二人で一緒に」という意味に取れなくもない。また、注の「二人のためのテーブル」は日本語としてちょっとどうでしょうか? この日本語だと普通に解釈して「二人のために特別に用意した」テーブルという意味。そうではなく「二人用のテーブル/二人掛けのテーブル」という意味。ここは「二人席を6時で予約しました」とすると原文の意味を正確に伝えて、かつ日本語としても誤解の余地がない表現だと思います(辞書の訳と比べてみて下さい)。
一方、WISDOMは、これを(引用)「❷〚意図〛〈人・場所など〉のための、・・・向き[用]の A table for two, please. 2人用のテーブルをお願いします」(引用おわり)と適切な訳を与えています。[WISDOM 【FOR】❷ P779]
 
どうですか? 読むだけでも疲れますよね。でも、書いてる方はもっと疲れるんですよ(笑)。なぜ、こんなにくどくどと「FOR」の意味を並べたかというと、「FOR」の意味は「~のために」だけではない!ということを知っていただきたかったからです。
「~のために」という日本語が乱用されて、あいまいな使い方をされていることがあるようで、残念な気がします。次もその一例です。
 
ベートーベンの有名な楽曲「FOR ELISE」を「エリーゼのために」と訳したばっかりに、作者であるベートーベンの心境を真に理解できず、エリーゼの正体に迫ることさえも阻まれてしまった原因の一つが、この「for=~のために」という思い込みだと筆者は考えています。 [正解は上の28個のどれかです・・・当たり前か!(笑)] 別のブログで、そんな「for」にかかわるオタッキーな推論を書いていますので、気になる方は読んでみてください。
(noteの筆者ブログ「COFFEE BREAK:「エリーゼのために」~「エリーゼのために」ではない「エリーゼのために」~」またはAmebaブログ「1.ベートーベンの「エリーゼのために」を掘り下げてみました」を参照ください)⇩

 

 
4.「all」は「すべて」ではない―「For all~」の表現について
「For」について、もう一つ押さえておきたいのは「for all~」です。「~にもかかわらず」とか「知らんけど」みたいな意味を持ちます。
(引用)
・For all his efforts, he failed to score. 彼は懸命にプレイしたが、無得点に終わった。
・He may fail for all I care. 彼は失敗するかもしれないが私の知ったことではない。
(GENIUS 【ALL】成句 for áll O (1)…にもかかわらず(in spite of, despite)…であるけれども(2)[通例care, knowと共に用いて]…に関する限り;(知る限りでは)…かもしれないが気にしない P55)
(引用終わり)
(GENIUS 【FOR】成句for all P773 )
 
5.「FOR」と「利害の与格」について
そして、最後に「FOR」と「利害の与格」について、簡単に述べてみたいと思います。詳しくは別途「『利害の与格』について」というブログをあげる予定ですので、興味のある方はそちらをご覧ください。
「与格」という聞きなれない言葉が出てきますが、第4文型S+V+O1+O2の最初の目的語(間接目的語O1)のことだと思ってください(正確にはこのO1がとる「形」)。「~に」という意味を担います。
 
第4文型A.「He sent her a book.」B.「He baked her a cake.」はそれぞれ
A.「He sent a book to her.」B.「He baked a cake for her.」に書き換え可能です(ニュアンスは異なります)。ここで、前置詞句に「to」を要求する動詞(A)と「for」を要求する動詞(B)に別れますが、Aタイプを「give」型、Bタイプを「buy」型と呼びます。
Give型には:give, lend, offer, pass, sell, send, show, tell, teach, write
Buy型には:buy, cook, find, get, make, sing
などがあります。(参照:「英文法解説」 江川泰一郎 金子書房 改訂3版 1991 §130 P189)
このうち概ね「buy」型に現れる間接目的語O1(「me」「him」など)について「利害の与格」という名称が与えられています。この構文「She baked her a cake.」の「her」が昔は「与格」という格の形をとったため、「利害の与格」と呼ばれるもので、「bake」という行為が利益を及ぼす相手(受益者)を表すものです。現代英語に「与格」を認めるCurmeの立場ではB.の「for+人(たまに物)」も「利害の与格」と呼びます。
 
歴史的にみると、古英語の「与格」が表す機能の一部がその後、前置詞「for」に引き継がれる中で、「利害の与格」と呼ばれる表現も主に「for」(一部「on」)に引き継がれていきました。
上の例でいうと、「a. He baked her(与格)a cake.」を「b. He baked a cake for her.」と書き換える時に出てくるb.「for her」がa.の「her(与格)」の格が持っていた利害を表わす性質を受け継いでいるという考えです。
 
どうでしたでしょうか?
次回は、いよいよ「of」、これで最終回です。「of」は「~の」ではありません。次回では「of」の持つ不思議な性格に迫ります。そして、スピンアウト編では『「rob A of B」はどうしてAとBが逆さまなのか?』について考察する予定です。本稿のスピンアウト編「利害の与格について」も併せて、乞うご期待!
 
 

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