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Rob A of Bは どうしてAとBが逆さまなのか?

Rob A of Bは どうしてAとBが逆さまなのか?
( “of ”の意味はいったい何なのか?  )
by SAKURAnoG
 
皆さん、こんにちは。今回は、「英語の前置詞について(その6 OF)」からのスピンアウト編その3として、表題の「Rob A of B」構文について採り上げたいと思います。 11編にわたった「英語の前置詞」シリーズも、今回で最後となります。
 
さて、皆さんは学校でこの構文を習ったときに、「あれ?」と思われたことはないでしょうか。この文は「BからAを奪う」ではなくて「AからBを奪う」なんです・・・が、逆さまじゃない?
最終回の今回は、SAKURAnoGが、この謎を過去にさかのぼって解き明かしていきます。
 
目次
1.「rob」がとる構文と「steal」がとる構文の違い
2.「rob」の仲間たち
3.「rob」と第4文型(S+V+O+O)
4.授与系動詞と除去系動詞の類似性と相違点
5.除去系動詞と感情の発露系動詞
6.ラテン語・フランス語から流入した情報伝達系
7.まとめ
 
1.「rob」がとる構文と「steal」がとる構文の違い
それでは、「rob」と似たような意味を持つ「steal」を対比してみていきましょう。
・They robbed him of his money.
・They stole the money from him.
「rob」は「(力ずくで)奪う」「steal」は「(こっそり)盗む」という意味の違いはありますが、そこは無視して進みます。例文からわかるように「rob」は人を「steal」は物を直接目的語に取ります。つまり「rob」は「(人から)奪う」「steal」は「(物を)盗む」という意味になります。なので、次のような「S+V+O」の文型が可能となります。
・They robbed the bank. 彼らは銀行を襲った。(=銀行から⦅お金を⦆奪った)
・They stole the money. 彼らはそのお金を盗んだ。
そして、何を/誰から取ったのかがそのあとに続きます。
(A)They robbed the bank + of its money.
          ⇧      ⇩
(B)They stole the money + from the bank.

「rob」と「steal」がとる目的語の違いで、「取られるひと」と「取られる物」の位置が逆になっているのがわかりますね。
特に、(A)では目的語「the bank」を「~から」と訳さないといけないことに違和感を覚える方もいらっしゃるでしょう。また、英語の得意な方は「(A)の『of』というのは(B)の『from』と同じように分離や離脱を表す前置詞だから、『steal』の場合と同じように『of』の後には『its money』じゃなくて『the bank』がくるはずじゃないの?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。
(A')※They robbed the money of the bank. (※は不適格の印)
うん、これなら何の違和感もなく頭に入ってきますね。どうして逆さまなのでしょうか?
 
2.「rob」の仲間たち
実は、この「rob」には、仲間がいます。「clear」「deprive」「strip」などです。どれも「奪う・除去する」系統です。
・He cleared the road(+of snow). 彼は道路を除雪した(=道路から雪を除いた)
・He deprived her(+of her freedom). 彼は彼女の自由を奪った(=彼女から自由を奪った)
・He stripped his room(+of furniture). 彼は部屋から家財を運び出した
 
また、親戚もたくさんいます。「of +名詞」を「目的語」(注1)に取るタイプの動詞がそれです。
a.     動詞+A+[of]+B
「remind A of B」(AにBを思い出させる)、「accuse A of B」(AをBの罪で訴える/非難する)、「suspect A of B」(AにBの嫌疑をかける)、「assure A of B」(AにBを請け合う)、「free A of /(from) B」(AからBを解き放つ※)、「divest A of B」(AからBを奪う/取り除く)などです。

※「free A of B」:「free」は「解き放つ」という意味です。なので、言葉に忠実に訳すと「AからBを解き放ってAを自由にする」という意味です。
・The software update freed the system of bugs and vulnerabilities. (Supplied by CHAT GPT)
([直訳]ソフトのアップデートが システムからバグや脆弱さを取り除いた)
これを「開放する」という意味で訳すと、あれ、「B(バグ)からA(システム)を開放する」じゃないの?となりますが、そうではなく、「A(システム)からB(バグ)という苦しみ・束縛を取り除く」というのが、このフレーズの意味です。「free」は本来「rob」や「clear」と同じように除去系の動詞なんですね。「free a room of clutter」(GENIUS [FREE] P788 ) で「部屋を片付ける」という意味です。上で紹介した同じ除去系の「strip」と比較してください。そっくりです。「strip a room of furniture」(部屋から家具を運び出す)(訳:筆者)
繰り返しますが「B(束縛)からA(束縛されている人・物)を開放する」ではなく、「A(束縛されている人・物)からB(束縛)を取り除く」であることがわかりますでしょうか?
おそらく「of」と並んで「from」という前置詞が使われるのは、NATIVEの方たちにもそういった一種の「誤解」があってそのような用法が広まっていったのかもしれないと筆者は考えます。
 
b.     動詞+[of]+A
「think of/about」「complain of/about」ここでの「of」は、「~について」という意味ですね。
 
実は、この「of」は上記例からもわかるように、一般に言われているような「離脱を表すof」ではないのです(注2)。少なくとも筆者はそう考えます。この「of」には意味がありません。それ自体が意味を持つ前置詞ではなくて単に格の機能を表す「機能的前置詞」または「格前置詞」(“inflectional preposition”)」と考えられます(注3)。この「of」を「離脱等を表すof」と捉えると、この「Rob A of B」構文の意味を理解することが難しくなるでしょう。
(注1)通常この「of+名詞」は目的語とは捉えられていませんが、過去にさかのぼると目的語だったことがわかります。これについては、後述します。
 
(注2)「Rob A of B」の「of」が「分離」を表すという前提で書かれた「英文法解説」(江川泰一郎 金子書房 改訂3版 1991年)から引用します。ここで、c.「Rob A of B」(AからBを奪う)構文における「of」の機能がほかの「分離・離脱」を表す「of」と異なっていることに留意してください。
(引用)
A. 分離
a. (位置の分離)Our town is 50 kilometers (to the) north of Tokyo. 
b.(出所・起源)He comes of ( = from) a good family.
c.(除去・奪取)They robbed her of her cash and checkbook.
(引用終わり)(キャプション等一部筆者改変)
「of」の後の名詞(前置詞の目的語)に注目してください。a.、b.ともに分離する所属元(分離される側)を取っています。ところが、c. は「her」(奪われる所属元)ではなく「her cash and checkbook」(奪われる物)が来ています。これは構文上、大きな違いと言わざるを得ません。
この理由を解明しないまま、a.、b.、とc.を同列に扱えば、「転置(transposition)によって2つの目的語の位置が入れ換わった」(同§276 解説)といったような解釈も生まれてくるのでしょうが、これから説明するようにこれは「転置」などではないのです(筆者の個人的な意見です)。
 
(注3)術語(Terminology)訳は筆者。この「of」については、数ある解釈の一つで、確定した説、解釈ではありません。ここでの考え方はCURME(「SYNTAX」Maruzen Asian Edition, 1959, copyright D. C. Heath and Company, Boston 1931)に基づく筆者の解釈です。
 
3.「rob」と第4文型(S+V+O+O)
どういうことかというと、話は古英語の時代(450ー1100のどっか)にまで遡ります。
もともと、「ROB」という動詞は二重目的語を取っていました。いわゆる第4文型「S+V+O1+O2」です。今は「格」という概念が薄れてしまったために、わかりづらいかもしれませんが、「rob」を含め、古英語における動詞はそれぞれの目的語に、ある一定の形(「格」)を求めていました
(注4)。
つまり、「rob」の場合、【S+V[rob]+O1「対格」+O2「属格」】という形です。上にあげた仲間や親せきの動詞もみな同様です。「ROB」の場合は、この形で「O1からO2を奪う」という意味を表しました。現代の「give」と比べてみてください。
【S+V[rob]+O1「対格」+O2「属格」】:「O1からO2を奪う」
【S+V[give]+O1「与格」+O2「対格」】:「O1にO2を与える」
(後述しますが、ここで「対格」をとっているものが「直接目的語」になります。「rob」のO1、「give」のO2ですね。 特に「rob」は、直接目的語を「から」と訳すことに留意してください)
つまり「rob」がとる2つの目的語に関しては、直接目的語「O1」(対格)が奪われる対象(~から)、間接目的語「O2」(属格)が奪う対象(~を)という住み分けをしていたのです(注5)。
また、「think of」の場合は、【S+V+O「属格」】で「~のことを考える/~について考える」という意味になります。
そして、時が進むにつれて「格」の形が対格以外は「語尾変化」から「前置詞句」へと移行していきます。ここで「属格」の機能を引き継いだのが「of」なのです。つまり、「rob」における「O2」(属格、~を)が「its money(属格)」から「of its money(前置詞付き属格)」へと変わっていったということです(注6)。
 
(注4)例えば、石(stone=古英語:st ā n)は、属格:st ā nes与格:st ā neという「形」でした。「格」については。筆者のブログ『英語「利害の与格」について』をご参照ください。
(注5)学校で習う現代の第4文型とは、直接・間接の順序が逆になっています。筆者の理解では、単独で動詞の目的語となれるものを「直接目的語」、そうでないもの(単独でその動詞の目的語にはなれない=S+V+Oの意味をさらに補完するための目的語)を「間接目的語」と呼びます。
つまり、第4文型の
・He baked Mary a cake.

・He baked a cake. は直接目的語なのでOKですが、
・He baked Mary. (ホラー映画か!)は間接目的語なのでNG、
という使い分けです。
したがって、
・He robbed a bank. では、「a bank」が「直接目的語」なのでOK、
・※He robbed of its money. では「of its money」は「間接目的語」なのでNG、となります。つまり、「rob」という動詞は「steal」と違って、「(物を)盗む」ではなく「(場所・人)を/から強奪する」という意味の動詞なのです。
 
「of + 名詞」を「目的語」とすることにちょっと違和感を覚える人、不定詞の名詞的用法で不定詞が目的語となるケースを思い出してください。
・He decided to retire. (英文法解説改訂3版 §212 P316)
 S  V   O
「to retire」は「to付不定詞」と習いますが、もともとこの「to」は前置詞で、「retire」が不定詞の本体になります。「to retire」を目的語というのであれば、「of its money」が目的語であっても何の不思議でもないですよね。(「rob A of B」の「of」は、その意味をなくしてしまって、今では属格を表す単なる機能語として形をとどめているにすぎません。不定詞の「to」が意味をなくして、不定詞を表す標識となっているのと同じです)
 
4.授与系動詞と除去系動詞の類似性と相違点
ここまでをまとめると、
d. He baked Mary a cake.
e. He robbed a bank of its money.
S + V + O1 + O2
といずれも二重目的語をとるパターンなのですが、d. では「a cake:O2」が直接目的語、e. では「a bank:O1」が直接目的語なので、それぞれを動詞の目的語として「S+V+O」の第3文型を取ることができます。逆に、間接目的語のみを単独の目的語として文を作ることはできません。
d’. 〇 He baked a cake.
e'. 〇 He robbed the bank.
d'. × He baked Mary.
e’. × He robbed of its money.
「bake」などの授与動詞と「rob」などの除去系動詞では、直接目的語と間接目的語の順序が逆になっているということです。
 
(注6)もともとここに現れる「属格」は意味を持っていました。Curme(同上)によれば、「the idea of specification」(特定化)(同上15Ⅱ P118)、さらに遡れば、原義ははっきりとはしないものの、「in a sphere」(~の領域で)「with respect to」(~の点において/~の点について)(同上13 3 P110)だったと言います。 
「think of」の「of」が「~について」という意味を持つのも、語源を知れば合点がいきますよね。
 
ところが格語尾の消失とともに登場したこの「of」も、時代の流れでその意味が次第に失われていきました。そしてこの「of」は「昔は属格だったんだよ」という「格」を表す名残りとなってしまったのです。前にも紹介したようにCurmeは、このように格の名残をとどめる前置詞を「“inflectional preposition”」(「機能的前置詞」または「格前置詞」)と呼んだのです。
ここで、「rob」の直接目的語O1(the bank、対格)のほうは「~から」という意味になります。動詞によっては「~に」となります。こちらの格は現在も変わらず「対格=目的格」です。
 
5.除去系動詞と感情の発露系動詞
Robなどの除去系の動詞には、次のようなものがあります。
・除去系:cleanse, clear, cure, deprive, divest, ease, empty, free, relieve, rob, strip、等
表す内容は異なりますが、ほかにも、
・その他:accuse, persuade, remind, suspect、など(注7)があります。
いずれも「S+V+O+of~」という文型を取ります。
(注7)「思い出させる」「疑う」など心の動きや「非難する」「説得する」などの心的に働きかける動詞で「心情の発露系」とでも呼べばいいのでしょうか。呼称は筆者案です。
 
除去系の動詞(+捜索系:「search for」など)の用法については、その意味と語法の関係について注意が必要です。
「英文法解説」(同上)では次のような説明をしています。
(引用)
(2)・・・同じように、日本語の感覚で見ると用法がつかみにくい他動詞にclear, rob, searchなどがある。これらの動詞には、「直接的に動作の対象になる物」に関係のある語を目的語とする用法がある。
(引用終わり)(カギカッコは筆者) (「英文法解説」同上 §129(2)[解説] P189)
ここで「直接的に動作の対象になる物」という表現はちょっと誤解を招きやすいので、注意が必要です。
Curme は、例文を挙げて次のように説明します。
a)     He wiped off the dust.(real object)
(筆者注「wiped off」が他動詞で「the dust」が目的語、Curmeは下記の「換喩的目的語」との対比で「真の目的語」と表現している)
b)     He wiped off the table. (metonymic object)
「metonymic object」は「換喩的目的語」のことで、「換喩」という聞きなれない言葉ですが、まさに「比喩的に言い換えた」という意味です。
(Curme「SYNTAX」11 2 a P99)
つまり、「wipe off」の真の目的語は「dust(塵)」なのですが、それと関連ある「塵の積もったテーブル」も目的語に取ることができる、ということを言っているのです。
もし、「英文法解説」の説明をそういった意味にとってしまえば、誤解につながるので、注意してください。つまり、「直接的に動作の対象になる物」という表現は、「文法上」の「動詞の目的語」ではなくて、「意味的に動作の対象となる」と言わないと誤解を招くと思われます。
同書の言う3つの動詞について、例文を挙げて説明します。これらの動詞は第3文型(S+V+O)をとった後、その後ろにその動作が「意味上直接作用する言葉」(文法上ではなく意味上作用する言葉)を取ることが可能です。
・He cleared the road(+of snow). 彼は道路から取り除いた(+雪を)=除雪した
・He robbed the bank(+of its money). 彼は銀行から強奪した(+お金を)=銀行強盗をした
・He searched her room(+for the key). 彼は彼女の部屋を捜索した(+そのキーがないか)=キーをさがして捜索した
「意味上」というのは上記和訳のように、日本語の「~を」に相当する言葉ということで、文法上の目的語ということではありません。
次の例文で確かめてみましょう。
「英文法解説」があげる3つの動詞は、それぞれ文法的な性格が異なります。
A)    場所、物どちらも目的語に取れる(clear)
〇 He cleared the road of snow. (場所)
〇 He cleared snow from the road. (物)
B)    物を目的語には取れないが、前置詞付きであれば取れる(search)
〇 He searched her room for the key.
× He searched the key throughout her room
〇 He searched for the key throughout her room.
C)物を目的語にできない(rob)
〇 He robbed the bank of its money
× He robbed of its money from the bank
× He robbed its money from the bank
 
誤解を避ける意味からも、例えば『これらの動詞は「モノ」ではなく「場所」を目的語に取ります』といった表現とする方が、いいのではないかと思います。
 
6.ラテン語・フランス語から流入した情報伝達系
なお、rob系以外に、現代英語で[V+(A)+of+(B)]の形をとるフランス語・ラテン語系の動詞があります。
情報伝達系:assure, convict, convince, inform, notify、などです。これらの動詞は、中英語(1100年~1500年)の時代以降にフランス語から流入、もしくはラテン語から借用してきたもので、おそらく単語と共にその用法も直輸入されたと思われます。つまり、現代仏語で「informer [somebody] de [something]」(l’informer de)といいますが(注8)、中世も用法は同様で、そこからの直訳で「inform [somebody] of [something]」の形となったと思われます。
(注8)“de” ≒「of/about」
 
7.まとめ
最後にもう一度、古英語の格に基づき『「of」+名詞』を「rob」の属格目的語と捉えることで、見えてくる第4文型との類似性を示して、この項を締めたいと思います。
今では第4文型を取る動詞は「give」型と「buy」型の2種類に分けて説明されますが、昔は「rob」型がS+V+O1(対格)+O2(属格)というパターンを取っていたということです。
今の第4文型との違いは、間接目的語に与格(現代)を取るか、属格(古英語)をとるか、というだけです。
☆授与動詞
・He baked her           a cake.
 S + V + O1 (与格・間接目的語) + O2 (対格・直接目的語)
二重目的語は「O1与格(に)」+O2「対格(を)」・・・buy型
☆除去系動詞
・He robbed her        of her watch.
S + V + O1 (対格・直接目的語) + O2(属格・間接目的語)
二重目的語は「O1対格(から)」+「O2属格(を)」・・・rob型
 
『「Rob A of B」(AからBを奪う)構文』は、Aが奪われる人(~から)「of B」が奪う対象(~を)を表すといった「二重目的語」を従えて、古英語の時代から形を変えながらも脈々とその機能を今に伝えているのです。
いかがでしたでしょうか? 一般的に言われている「rob A of B」の「of」は離脱・分離・剥奪を表す、といった解説では見えてこない「of」の機能(機能的前置詞)や第4文型との関連(「give(与える)」⇔「rob(奪う)」)を見てきました。
「give」が第4文型をとるのであれば「rob」も第4文型であっても少しもおかしくないということが、過去に遡れば納得できる気がしますね。
今回準拠したCurmeの“Syntax”は、今から約90年前の著作ですが、古くてもいいものは残る、真理は変わらない、という筆者の考えに基づいて、今回の一連のブログではCurme一本で解説させていただきました。
また、機会があれば現代の他の文法家の意見も採り上げながら、英語の不思議に迫ってみたいと思っています。
それでは皆さん、また逢う日まで。Au revoir!Auf Wiedersehen!See you!
 
 

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