【小説】魔王が甘いから私がやる。[#010]
前回までのお話
#010 : 光
ドラゴンの広間の隅で私と辰夫はエスト様が目覚めるのを待っていた。
…
『う…ん………あ…れ?これは夢かな?お姉ちゃんがいる…ドラゴンさんも!』
エスト様の目が覚めた!
「良かった!エスト様!」
私は思わずエスト様を抱きしめた。
「ふむ。一安心ですな。サクラ殿。」
「本当に良かった。感謝しますよ。辰夫。」
エスト様はキョロキョロと周囲を見回しながら言った。
『これは夢じゃないのかな……?』
「夢ではありません!サクラはここにいます!」
エスト様は怯えながら言った。
『だって…最近の私はね?記憶障害が酷くて………』
「はッ!?…あはは!こ、これは…ゆ、夢じゃありませんよ!エスト様!私です!サクラです!」
「サクラ殿の冷や汗が凄いが…」
「黙れ!トカゲ!」
「…はい。」
私はエスト様のアゴを狙うのはしばらくやめようと思った。
『2人が助けてくれたんだね。ありがとう☆』
「わ…私のFカップの野望の為に、た…助けただけなんだからねッ!」
「エスト様は私の全てなのです!と言ってたが(笑)」
「おいコラ!トカゲ!」
「…はい…すみません。」
『ふふふ☆いつものお姉ちゃんだね☆』
エスト様はとても嬉しそうに笑った。
「エスト様。このドラゴンですが…辰夫!自己紹介しなさい。」
「ふむ。我が名はリンドヴル…む?」
私は辰夫をキッと睨み付けた。
「もとい。我が名はた、たつ……辰夫。サクラ殿に敗北し…配下となった。今後とも宜しく頼む。」
「そうなんです!私が!わ・た・し・が!倒して配下にしましたーwww 私が!ソロで!タイマンで!余裕だったねーwww ねー?たーつーおッ?」
これ以上に無い最高のドヤ顔の私の横で辰夫はそっと涙を拭っていた。
『え!お姉ちゃんが1人で倒したの?凄い!凄いよ!』
「ふふふ…小娘ッ!もっと…もっとよ!もっと褒めなさい!」
『よろしくね☆ 辰夫☆』
「うむ。よろしく。」
『おいおい。お前、敬語つかえよな?☆』
「……はい…。」
…辰夫は震える手でそっと涙を拭った。
「うん?あ、エスト様。辰夫は私の配下だからな?」
「ぇ………お姉ちゃ…ん…?」
…エスト様は震える手でそっと涙を拭った。
………
私たちはドラゴンの広間で少し休むことにした。
「辰夫!まずはこのダンジョンの構造を教えなさい。」
辰夫はゆっくりと眼を開け、説明する。
「ふむ。ここは常闇のダンジョンと呼ばれている。この場所はその地下100階になるな。」
「ひ、ひゃ…く…」
『うんうん☆ 10階ごとにこういう広いところがあってね!それぞれボスモンスターが居るみたいだよ☆』
エスト様は頷きながら言った。
「えぇ…めんどくさすぎる…とは言え、ここからは辰夫の背中に乗っていけば良いから移動は楽になりますね。」
『おぉー!お姉ちゃん!あったまいいー☆』
「あっはっは!…小娘ッ!もっと…もっとよ!もっと褒めなさい!」
「え………?そうなのか?」
辰夫はめんどくさそうに言った。
「いいこと?辰夫。私はね…妹が入ってる箱を背負って鬼と戦った少年を知ってるけど?その少年はね?家族をみんな鬼に殺されて、それでも折れなかったの。やり遂げたの。そんな子も居るというのに…あまったれんな!全集中しろ!」
『その人カッコいい!』
「…はい。」
そして私達はダンジョンの出口を目指す事にした。
………
—— それから数週間。それぞれの階層ボスを撃破し、全て私たちの配下に従えることに成功した。
以下、雑にダイジェストで解説しよう。
90階層ボス:サタン
→ そこそこ強かったが、辰夫を戦わせてる間に背後からドロップキック→逆水平→ドラゴン・スクリュー→逆エビ固めで勝利。
※便利だったので【辰夫シールド】と命名
80階層ボス:ワイト
→ こいつもそこそこ強かったが、辰夫シールドで攻撃を引きつけてる間に背後から後頭部をドロップキックし、倒れたところを執拗にストンピングして勝利。
※後頭部は危険だから良い子はマネしちゃダメ。絶対。
70階層ボス:ベヒーモス
→ なんかエスト様と辰夫が頑張って勝ってた。
60階層ボス:グリフォン
→ 空に逃げたので、辰夫を投げてぶつけた。(ワンパン)
※便利だったので【辰夫ロケット】と命名
50階層ボス:ワイバーン
→ また空に逃げたので、60階層同様、辰夫ロケットでワンパン
途中にあったヴァンパイアの集落のボス:ヴァンパイアロード
→ 自己紹介中に辰夫ロケットでワンパン
40階層ボス:フェンリル
→ この辺りから辰夫の目が死んでいることに気づいたので、エスト様を投げつけてワンパン
※便利だったので【エストミサイル】と命名
30階層ボス:キマイラ
→ エストミサイルでワンパン
20階層ボス:ゴーレム
→ 辰夫ロケットもエストミサイルも効かなかった。硬い。
でもオデコのEを消したら勝った。
エスト様と辰夫の目から光が失われてるのが気になった。
10階層ボス:ミノタウロス
→ エスト様と辰夫の姿が見えなかったので、仕方なく私がワンパン。
途中で覚えたエスト様のスキルでいつでも配下を召喚する事ができるようになったので、それぞれの階層ボスはその場でとどまる事とさせた。
—— そして私たちは、ついにダンジョンの出口にたどり着いた。
長い暗闇を抜けると、眩しい光が私たちを出迎えた。
「光だ…!」
私の声が喜びと安堵に満ちて響く。
『うわぁ…☆』
エスト様の声には、純粋な感動が溢れていた。
「ふむ…何百年ぶりか…。」
辰夫の呟きには、深い感慨が滲んでいた。
ダンジョンを出ると、そこには息を呑むような美しい世界が広がっていた。
生命力に満ちた緑の大地、遥か彼方に連なる雄大な山々、果てしなく広がる碧い空。
新鮮な空気が胸いっぱいに広がり、風に乗って甘い花の香りが漂ってくる。
温かな陽射しが、長い間冷えきっていた身体を優しく包み込んだ。
(つづく)
※次回!ダンジョンの外に出るとそこには!?そしてサクラに新たなスキルが!?