【小説】魔王が甘いから私がやる。[#001]
#001 : 転生してもAでした。
—— これは私…サクラが世界を征服する物語 ——。
…
『 …ちゃん…お姉ちゃん!お姉ちゃんッ!!起きてよ? 』
柔らかな少女の声が、朦朧とした意識の中に滲み込んでくる。
同時に、小さな手が私の肩を揺さぶっている。
…ぅん?……おかしい?
私の脳裏に、違和感が走る。誰かが部屋に居る。
しかし、私は確かに一人暮らしのはずだ。その矛盾に、徐々に意識が覚醒していく。
「 …えッ!? 」
『ふぅ。やっと起きたー☆』
知らない 女の子 が私を見つめて嬉しそうにしている。
慌てて身を起こし、女の子に話しかける。
「 なんでッ!?お嬢ちゃん!?だれッ?…どうした…の……んん…? 」
反射的に身体を起こすと、目の前には見慣れない光景が広がっていた。
薄暗い洞窟のような部屋、壁には不気味な紋様が刻まれ、床には血痕のようなものが点々とついている。
…知らない部屋に居る。
……そこには知らない女の子が居る。
私は思わずベッドから飛び退き、後ずさる。
心臓が破裂しそうなほど激しく鼓動している。
汗が吹き出してくる。ここはどこ?私は一体…
「 は?なに?ここはどこ!?…落ち着くのよ私!……ちょっと思い出そう?」
自分に言い聞かせるように呟く。深呼吸を繰り返す。
混乱する頭で必死に記憶を辿る。
目の前の少女は黙ったまま、クリクリとした大きな瞳で私を見つめている。
「……確か…昨日は……そうだ!…グレート・ムダ様の引退試合観戦に行って…そのあとに友達のカエデとツバキとお酒を飲みに行って…」
『…。』少女は黙って聞いている。
「ムダ様の勇士をもう見れないのかと考えると辛くてお酒を飲みまくって…」
『……!?』 少女の目が少し大きくなった。
「で、今?」
『…うん!ろくでもない日常を送ってるね☆』
女の子がとんでもなく失礼な事を言ってきたが、今はそれどころではない。
殴るのはあとでいい。
子供だからといって容赦はしない。
子供に社会の厳しさを教えるのも大人の役目なのだ。
泣くまで殴るのだ。
その衝動を抑えながら、私は少女をよく観察する。
青白い顔色、その瞳は真っ赤に燃えている。そして、頭の左右からは小さなツノ
…ん"ッ?…ツノッ!?
「……って!お嬢ちゃん!?……その頭のって…ツノ…だよね!?」
『…えと…あの?…始めても良いかな…?』
女の子は軽くパニックになっていた私を見つめながら言った。
「あ、はい。どうぞ。お願いします。」
私は深呼吸をして、心を落ち着かせようと努めた。
そして女の子は仕切り直すように嬉しそうに手足をバタバタさせて口を開いた。
『 オホンッ☆…えっとー!まずはッ…私の名前は エスト だよ☆ 魔王でっす☆』
「…ん…ぁ…はい…マオー…さん?」
言葉が出ない。頭の中で「マオー」という言葉が反響する。
『この世界はお姉ちゃんの居た世界とは違いまぁーーーッす☆』
「へぇ…!?」
現実感がどんどん薄れていく。夢の中にいるような感覚。
『いまーッ!?私達が居るぅーッ!?この場所はぁーッ!? とあるダンジョンの最深部 だよぉーーーーーんッ☆』
「…ダン……ジョン……?それよりもテンションうざッ」
『昨日ね?私が魔王になったので、サポーター召喚ガチャを回したらお姉ちゃんが選ばれたんだよ☆ 』
「…ガ…チャ…?」
『お姉ちゃんにはこれから私の 世界征服 を手伝ってもらいまーーーッす☆ 』
「…ゎぁぉ…世界征服ぅ…?」
女の子は紅い瞳をキラキラさせながら言葉を続ける。
『 あーッ☆ そうそう!お姉ちゃんは人間ではありませんッ☆ 召喚の時に 鬼 にしてまーすッ☆ 』
「…へぇ?…オニね…そうなんだ…?」
この子の言葉の意味を理解するのに時間がかかる。
早々と動いていた薄紫の唇が閉じると、魔王エストはやりきった表情(かお)をした。
…?
……?!
少しづつ…今の私が置かれている状況が頭に入ってきた。
巷で流行りのアレだ。異世界召喚…?
人間側が召喚したのではなく、魔族側が召喚してきた!?
………!!!
「 …ん?ん"ん"ッ?…人間じゃなくて鬼ッ!? 」
『 うんッ☆ 』
慌ててベッドから飛び出す!
「ひゃん!?」
冷たい石の床に素足が触れ、ビクッとする。
部屋の中を物色する。目は何か現実的なものを探している。
しかし、目に入るのは全て見たこともないようなものだ。
「…は?……えッ!?なに?どういうこと?あ!鏡!」
部屋の隅に鏡を見つけた!
……おそるおそる…自分の姿を鏡に映す。
………
「 …ぇ? ……ゎ…わ?…若返ってる…?」
私は新卒で商社に入社したばかりのOLだが、鏡には10代後半くらいの自分がいた。
肌はツヤツヤで、目は大きく、唇は艶やか。
まるでアイドルのような美少女だ。
あらためて確信する。私は美しい。
—— しかし!頭には見慣れぬものが!
「……?…何これ!?」
恐る恐る頭の見慣れぬものを触ると、これが作り物ではない事がわかった。
それは確かに私の頭から生えており、触れると少し温かみすら感じた。
「 …これ…頭から生えてる……え!私の頭から生えてる…?」
『うん☆』
「わッ!私の頭から ツノがーッ生えとるやないかーいッ! 」
パニックになりかけ思わず関西弁になった。
呼吸が荒くなる。
『 だって鬼だもーーーん☆ 』
エストはとても嬉しそうだ。
「…ちょっと待って……ぉ…お…鬼だなんて…なんてことしてくれたの!?い、いやよ!そんな…こ、これからは豆を食べれない?……豆腐や豆乳は?…そして何よりも好きな納豆は…!?」
『気にするとこそこ!?』
「あ。でも豆を食べたいと思ってるから平気かな。私の心までは奪えないんだから!」
『この人は何を言ってるの?』
私はようやく異世界に転生したのだと理解した。
そうすると現実感が一気に押し寄せてくる。
「 …転生…ということは…生まれ変わり…?…今までの私ではない……あっ!じゃあ………胸は!?…もしかすると! 」
一縷の望みを抱き、おそるおそる 胸 に手を当てる。
スカッ…!
「……。」
期待と不安が入り混じる。
深呼吸をしてから再度、胸に手を当てる。
スカッ…!スカッ…!
「……。」
……期待はすぐさま落胆へと変わった。胸の平坦さは変わらず。
「 …期待で胸は膨らんだ けど……実際の胸はそのままの… Aカップ なのね…」
声に落胆が滲む。
『上手いこと言うね☆』
「 …どうせ生まれ変わったんだから……もっとこう… Fカップ に… 」
すると小娘は何かを閃いたような表情(かお)で言った。
『 あッ!じゃあさ☆ じゃあさ☆ 世界征服をしたら Fカップ にしてあげr 「はじめましょう。魔王エスト様。世界征服を。 」
私は食い気味に世界征服の決意をあらわにした。
—— そして魔王エスト様の手の甲に誓いのキスをする。
そう——。
心からの忠誠を誓ったのである ——。
エスト様の冷たい手の甲から唇を離すと、エスト様と目が合う。
『…。』
「…。」
一瞬の沈黙。
『……ふッ…☆』
「……あはッ…」
『 ふッ☆ふはははははははははははーッ☆』(どーしよう!巨乳にする方法なんて知らないし!)
「あははははは!あーッははははははーッ!」(この小娘。嘘ついたらどうしてくれようか!?)
私たちの高らかな笑い声が…この異世界に響き渡る。
—— こうして私たちの世界征服が始まったのである。
(つづく)
「あッ!」
『ん?』
「あのッ…質問良いですか?」
『なぁに?☆』
「やっぱり節分の日は豆を怖がらないとダメですかね?」
『そんなの知らないよ☆』
「うーん…まぁいっかw」
『うん☆』
『…。』
「…。」
『……ふッ…☆』
「……あはッ…」
『 ふぁーッはははははははははははははーッ☆』(まぁその時はあやまれば許してくれるよね☆)
「げははははは!げーッははははははぁーッ!」(嘘だったら絶対に許さねーからな?)
『お姉ちゃん?その笑い方やめて?』
「あ、はい。」
(ナレーション)
—— バカ2人の笑い声がいつまでも異世界に響き渡っていた。
—— これは私、サクラが世界を征服する物語 —— 。
この物語は、まだ始まったばかりだ。
(今度こそつづく)
※次話のキーワードは "乳・尻・太もも" だよ☆