【小説】魔王が甘いから私がやる。[#003]
前回までのお話
#003 : レベル上げ
魔王なのにこれからレベル上げしなければならないという超絶めんどくさい事実を告げられ、私は愕然としていた。
「え…レベル上げ……ですか……?」
思わず弱々しい声で聞き返してしまった。
『そうだね☆』
エスト様の声は相変わらず元気いっぱいで、それがまた私のやる気を削いでいく。
「私の嫌いな言葉は一番目が 努力 で二番目が 頑張る なのですが…」
『KUZUGA☆』
エスト様は笑顔で私をディスって来た。
『まぁいいや、まずは現状を確認してみようよ。ステータスオープンって言ってみて☆』
エスト様は目を輝かせながら言う。
「は?なんでですか!?いやですよッ!!」
『めんどくさいなお前ッ! 良いから言えよッ!』
エスト様が地団駄を踏み始めた。ヒス持ちなのかな。
「仕方ないですね… ぁ!ステータスーッ!オープンッヌ!」
『ノリノリやないかーい☆』
うーん。このツッコミはまだまだだな…教育の必要があるな…と、落胆したところで目の前にウィンドウが開かれた。
「おおー…凄い…!」
ウインドウには私のステータスが書かれていた。RPGゲームのようなステータス画面だ。
「oh ……?…可憐な私が怪力?…ぺ、ぺったん…? 20% ダウンとか酷すぎない…?」
私は目を疑った。
システムにハラスメントされているのである。シスハラである。
この世界の管理者に殺意を覚えたが、それはいったん置いといて、このステータスで異世界無双はできないと理解できた。
まぁ私はもともと最強とかチートとかには全く興味がない。
いかに 面白おかしく生きるか?私はこれにしか興味がないのだ。
そして、今の私にはなんといっても最強の魔王様がバックにいる。
私自身は弱くても全然問題無いのだ。
魔王様!ファイト!私のために!
そんな最強(予定・未定)の魔王様と一緒にこれから ちまちま とレベル上げをするのは性に合わない。
そこで、エスト様に とある提案をしてみる事にした。
「エスト様。レベル上げの件ですが、私に考えがあります。」
『なんだーい?聞くよー☆』
「エスト様は魔王なので、言わば超レアキャラなのです。だから経験値とか凄いと思うのです。そこでですね…。2人でスパーリング的な事をしてたらレベルが上がらないですかね?」
『なるほど。もっともな意見だね☆ いいよ!魔法でバリアを張るから思い切り殴ってみなよ☆』
「思い切り……ですか? 良いのですか?」
『レベル 1 の鬼に殴られたところでなんともないよ☆』
エスト様はふんぞり返り余裕の笑みを浮かべている。
「めっちゃフラグが立ってますけど…」
『フラグ?』
「未来予知みたいなものです。」
『ほーん☆』
私は面倒な事は雑に流す事にしている。
「では………思い切り…いかせてもらいます。」
『あいよーこいこい☆』
「…。」
(なんだこの小娘…イラッとするな…)という感情を抑え…
そして子供の頃に読んだ事のあるパンチの聖書(漫画)の一文を思い出し…それを呪文のように唱え………
「ぶつぶつ… ぶつぶつ… 明日のためのその1 …やや内角をねらい…えぐりこむようにしてッ!…打つべしッ!」
………パンチを放った!!!
シュッ!!!…ドガアッッッ!!!!!
—— なんと!私のパンチは魔法バリアを貫通し、絶妙な角度でエスト様のアゴを貫いた。
『ジョーッ☆』
エスト様は謎の奇声と共に地面に膝をついた。
『…へへ…燃え尽きたよ…真っ白にな………☆』
そしてよく分からない事を言いながら良い表情をして地面に倒れ込み、失神してしまった。
私はどこかから怒られるのではないかと内心ヒヤヒヤしたが、そんなエスト様を見下ろしてから自分の拳を見つめ、泪橋の眼帯のおやっさんに感謝した。
—— その時である!
(テレレレッテッテッテー♪)
「わわッ!」
私の頭の中でファンファーレが流れ、アナウンスが聞こえた。
(サクラのレベルが 100 に上がりました。)
「ひゃ…?いーや!上がりすぎー!エスト様!美味しすぎぃー!」
(サクラは魔王を倒したので「称号 : 勇者」を獲得しました。)
「ん"…んん…?…勇者に…なった…?」
私は考えを巡らせる。
「うーん…?……なるほど。魔王を倒したのだから勇者だよね…。」
私は手をポンと叩いた。納得の理由である。
「そうだ。ステータスを見てみよう。 ぁ!ステータスーッ!オープンッヌ!」
目の前にステータスウインドウが展開される。
「oh …ゆーしゃ…。」
—— かくしてここに勇者が誕生したのである。
「えぇぇ…めんどくさ……。」
(つづく)
※次回!勇者になってしまったサクラに究極の選択が迫られる!?
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