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浮遊無機物がサクラエビの卵および幼生に与える影響についての論文を読んで考えたこと
読んだ論文
Influence of suspended inorganic particles (kaolinite) on eggs and larvae of the pelagic shrimp Lucensosergia lucens
Md. Jahangir Alam, Kazuma Date & Hisayuki Arakawa
Scientific Reports volume 12, Article number: 14085 (2022)
https://doi.org/10.1038/s41598-022-18373-8
論文の概要
著者らの仮設
サクラエビの幼生の生存と成長に対する無機物粒子の影響を調査した研究。富士川河口付近にサクラエビの産卵エリアがあるため、近年の不漁の原因のひとつとして富士川の影響を調査した論文。
富士川から流れ込む粘土鉱物の主成分の一つであるカオリナイトを用いて実験を行った。カオリナイトはミジンコのようなプランクトンや貝類への影響は報告されているがエビの発生初期段階の研究例はほとんどない。Linらはクルマエビの発生初期段階において65NTU*の粒子がストレス源になるという報告をしているため、サクラエビにおいても無機物粒子が発生に影響し不漁につながったのではないかと著者らは仮説を立てた。
*NTU (Nephelometric Turbidity Unit; アメリカで用いられている、ホルマジン標準液を用いた濁度の単位; = mg/L?)
実験結果
結果、カオリナイト粒子濃度が高いほどサクラエビの卵からの孵化率、幼生の生存率は下がり、形態異常が増加した。
粒子濃度6.9 mg L-1以下では幼生の成長が見られたが20 mg L-1以上では体に粒子が多量に付着し急激に成長が抑制された。
著者らの考察
著者らは、無機粒子はサクラエビの初期発生段階に大きな影響を与えることが示され、梅雨の時期に川から無機粒子が多量に流入することで駿河湾サクラエビの孵化、変態、成長に影響を与えると思われると結論付けている。
桜海の考えたこと
あれ?これって駿河湾で起こってるの?
Discussionに「野外観察では、L. lucens の産卵期の平均濁度は 6.9 mg L-1 と記録された。海水には有機物(33%)に比べて無機物(67%)が多く含まれている。最大濁度は、河口から13km離れた海域で16mg L-1を記録した(未発表)」と記述されている。あれ?6.9では影響なかったのでは?平均が6.9で最大でも16、駿河湾のほとんどの海域で影響ないレベルの濃度なのでは。
静岡県の定期調査を引用して「駿河湾への浮遊粒子の投入は、特に梅雨時(7-9月)の流出後にかなり高くなり、平均値は41.7から115.5 mg L-1であることがわかった」とも記述されているが、ふじさん工業用水道(旧東駿河湾工業用水道)の原水のデータを使っています。これは川から海へ流れ込む前の濃度なので海の中では拡散して濃度は落ちるはずです。
さらに実験では50mlの容器に生物と無機粒子を入れて10日間攪拌しています。このような高濃度の状態が自然界で10日間も続くことは稀なのではと思います。
粒子のついたもの見たことないなあ
桜海の感想としては、無機粒子が幼生に悪影響を及ぼすのは確かだけど、駿河湾でそれが起こっているかというと疑問です。実際に駿河湾で採取された卵や幼生を観察したことはありますが、サクラエビに限らず多くのプランクトンで粒子が付着したものは見たことがありません。見落としもあるかもしれませんが、粒子の付着があるとしてもそのくらいの頻度なのではと思います。富士川から流入する懸濁物が2018年以降の不漁の第一の原因とは言うのは難しいのではないかと思います。
他の可能性は
ではほかに考えられることは?もっと目に見えないものかもしれません。例えば環境ホルモン(内分泌かく乱物質)のような化学成分や、マイクロプラスチック。この論文でもろ過摂食生物は無機粒子を取り込んで成長阻害を起こすという引用がされていましたし、富士川ではアクリルアミドの問題もありましたね。陸域からの影響を考えるとしたらそういう項目も調査をしていかないといけないのではないかと思います。