ⅹ. 作品の窓④ 「鯨を呼ぶ人」
「いつもどこかで鯨を見かけるようになってから、私はまわりの人から〈鯨を呼ぶ人〉と呼ばれるようになった。漁船で働いた頃、船長が何年も海に出ていた人だったけれど、鯨を見たことがないと言った。そこへ私が行くと、毎回鯨が現れた。そういうことが起きてきた。」
「私たちシネコックは鯨獲りでもあった。鯨が浜に打ち上がるのを待っていただけではない。私たちは100人乗りのカヌーを持っていて、何日も航海することができた。銛を使って鯨を獲った。銛にはロープが結びつけられていて、そのロープは丸太に結ばれていた。何本もの丸太が一緒に括り付けられていただろう。今でもその方法で鮫を獲る人たちを見たことがある。鯨が潜ろうとすると、丸太が浮きとなって妨げた。人々は水面に浮いた丸太を目指して鯨を追った。いくつかの伝承によると、鯨獲りたちが鯨とともに戻って来る時、浜辺で待ちかまえていた人々はカヌーを漕ぎ出し、海上の中間地点で落ち合った。人々は食べ物や水や飲み物を鯨獲りに渡して、浜辺まで鯨を運ぶのを手伝った。私たちが伝統的に使ってきた漁業の道具は釣竿とリール、刺し網、そして簗(やな)だ。簗は、魚が入り込むと外に出られない仕組みになっている。こうした伝統の多くは失われた文化の側面でもある。いや、私たちは失われたとは言わずに〈忘れられた〉と言う。そして今、それを思い出そうとしているんだ。」
テキスト抜粋:『ありふれたくじら』Vol.6より
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