ⅶ. 作品の窓③「鯨の贈り物」
「もう25年も前のことだ。アラスカ州ウェールズから来たひとりの男に会った。彼は先住民イヌピアックで、鯨獲りとして生きてきた私たちシネコックの歴史について、当時の私より詳しく知っていた。」
「アラスカに住む彼を訪ねていた、ある日のことだ。私たちはデッキに座っていた。夏の白夜の時期だった。彼は一枚の鯨髭を取り出した。」
その鯨髭の幅広い方の端には、ホッキョククジラの絵が細い線で刻まれていた。
「彼はこう言ったんだ。『君がこれを持ち帰れば、君たちシネコックの鯨獲りとしての歴史を学び直す贈り物になる』。」
「その後、90年代の終わりのことだったと思う。ロングアイランドの地元の新聞に20頭のセミクジラが現れたと書かれていた。とても珍しいことだった。それが過去20年間で唯一発見されたセミクジラだと言われていた。そのニュースを聞いて、鳥肌が立って、思ったんだ。『これは何かのサインだろうか?』と。」
「私が長い旅から戻って、アラスカから鯨髭を持ち帰って、それまで見られなかったセミクジラが現れた。これは偶然なのか、それとも何かの意思なのか?」
テキスト抜粋:『ありふれたくじら』Vol.6より
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