初めて素材三銃士
左から順に
「むぎゅっ」2022年、「猫」2021年、「幽し」2021年…です。
制作順に見てみましょう。
猫
「猫」
2021年(高校3年生)
楠 漆
高校3年生時の課題作品です。初めての木彫!初めての漆!
この課題がなければ木彫の道に進んではい……ますね。
いずれにしても木彫には憧れがあったため、遅かれ早かれ出会ってはいたはずです。
ただ高校ではこのほかに機会がなく、卒業制作はきっと違ったものになっていたことでしょう。ここでヤスリをかけるコツを掴んだのは確かです。
見てくださいこの輝き!!
これ、光源が曇りの日の窓に差し込む光なんです!
それでこの輝き!初めてヤスリをかけたとは思えないでしょう?
80番〜2000番くらいまでかけたはずです。頑張りましたよ。
この課題のテーマは「手放したくない形」。
つまりハンドスカルプチャー的なニュアンスの課題でした。
けれど、それじゃあつまらない。せっかく「手放したくない形」という表現で提示されたなら他の捉え方も練ってみたいものです。
「そこから最終的に良い形にすれば良いっしょ!」今も5年前も感性が同じ。文字通り良い形にしたのがこの作品です。
この課題には珍しくコンセプトを文に起こすという別課題もくっついていました。
お察しの通り願ったり叶ったりな課題だったわけです。
なんと当時のPDFがまだ手元にあるんですね〜!
以下園部桜子(高校3年生のすがた)の文章です。
これは猫の様なものです。猫と言ってもただの猫ではありません。艶やかな黒い毛皮の下にしなやかな筋肉を持つ、魅力ある猫です。けれども私は実際にこの猫に会ったことはありません。
しかし私にとってはこの猫こそが手放したくない形そのものなのです。
この作品は10cmの楠の立方体を削って作られており、底面には真っ黒い新工芸うるしがぬられています。
まず始めに数ある立方体の中からビビッと来るものを見つけ出します。私が選んだこの立方体は丸い2つの木目が目立つとてもかわいらしい柄です。実はこの猫、きちんと尻尾があるのです。
丁度良い長さの濃い木目を見つけたのでそれに合わせて切り出してみました。なかなかに素敵だと思いませんか?この猫のチャームポイントです。
次に切り出しです。大きなバンドソーと呼ばれる機械の音に耳をつんざかれながらの作業は、そう容易いものではありませんでした。本来はもっとピンとした耳にする予定でしたが、左右非対称な形になってしまいました。これも味です。愛嬌のあるフォルムとなりました。
ある程度の形が出来てきたらツルツルになるまでひたすらに磨きます。荒い金属やすりから細かい紙やすりまでを順にかけていきます。荒いやすりの時はみるみると形が出来てきますし、細かいやすりの時は段々と光沢が出来てきて段階毎に違った楽しさがあります。私はこの工程が得意だった様で、ペカペカに輝く猫になりました。
最後に数回に分けて新工芸うるしを塗ります。
一度にこってり塗るのではなく、1回塗った後乾か
して、やすりをかけてもう一度と丁寧に重ねていきます。はみ出したり、埃がついてしまっては綺麗に塗れないのです。しかも底面は橋円形。不器用な私には至難の業でした。
さてそろそろ私とこの猫の関係が気になってくる頃だと思います。突然ですが私はここ数年間、とてもよく悪夢にうなされます。しかも決まったものではなく日々新しい悪夢に進遇するのです。
この猫は一度私を悪夢から救い出してくれたことがある恩人、いや恩猫のような存在です。課題である「手放したくない形」と聞いた時、私はふとこの猫の存在を思い出しました。どんな悪夢も所詮私の頭の中での事。私の意識次第でなんとかなるはずです。そう思い立った私は今回の課題で「手放したくない記憶」からこの猫を製作しました。
夢というものはとても儚く、自覚するとパッと消えてしまいます。この猫は大切な存在であり
もちろん名前もあります。けれどもそれを“分かって”しまうと消えてしまう。私はきちんと忘れてしまわない様にするためにこれにただの「猫」と名付けました。
この課題は当初のデザインから少し雰囲気が変わりました。私が上手く機械を扱えなかったことが要因ですが、より夢特有の不思議な感じを表現出来た様な気がしてとても気に入っています。
立体作品は平面の作品よりも先が読めない分野だと思います。その結果が良いものばかりではないけれど、自分の手の中で姿を変えて行く作品と向き合うこの感覚はこれでしか味わえないものです。今回の制作を通して私はやっぱりこの感覚が好きだなぁと改めて感じることが出来ました。
…あんまり変わってないですね。
幽し
「幽し(かそけし)」
2021年(高校3年生)
ガラス
最初で最後のガラスのパート・ド・ヴェール作品です。
そのおしゃれな単語はなんぞや?!と思ったでしょう?
簡単に言えば鋳造です。わぁシンプル!
原型制作→型取り→ガラス粉投入→窯焼き→磨いて完成!
ざっくりとこんな感じの技法です。
フランス語にするだけでこんなにおしゃれに感じるなんて…!
おしゃれな素材はやっぱり違いますね…
この課題はいくつかある単語を形にするという抽象作品の課題でした。
他の候補は全く覚えていないのですが、同じくらい日常では使わない単語だったはずです。
ちなみに幽しとは「光・色や音などがかすかで、今にも消えそうなさま。」という意味です。(デジタル大辞泉)
この作品は漢字にもつられて幽霊をイメージして制作しています。
ただ消えちゃいそうな幽霊よりも、ポップに重量ある幽霊が真ん中からぬわぁーっと消えた方がしっくりくるなと突然閃きこのフォルムです。
真ん中の穴から広がりながら消えていくイメージです。
使用したガラスは白と無色の2種類。
ざっくりと混ぜたことで存在の不確かさを表現しています。
実はこの課題、途中で体調を崩して時間が少なかったんです。
できることならもっともっとピカピカにしたかった!
ガラスは木に比べてもちろん硬い素材です。
木には紙ヤスリ、ガラスにはダイヤモンドのヤスリ、紙ヤスリ、研磨剤を使います。
なぜか人並みよりも柔らかい指を持つ私には硬いヤスリは向いていなかったみたいです。
このサイズでも完成する頃にはボロボロになってしまいました!
ちなみに表面にある線は石膏から油粘土を取り出す際にできた傷です。
この形を掻き出すのは至難の技でした…手伝ってくださった先生にはずっと感謝しています。その節は…!!!
むぎゅっ
「むぎゅっ」
2021年(大学1年生)
河原の石
初めての石彫です。
大学に入ったばかりの頃に制作しました。
木は削るのに対して石は砕いて形を作るイメージです。
クラスのみんなが意図せず割れてしまっているのを見て、割れたらそれもそれでアリかも〜!っと気負わず挑んだら全く割れることなく完成してしまいました。
どうやら相当柔らかい石だった様です。
今見ればいかにもな見た目なんですけどね
初めての私たちにわかるはずもなく…
どんな素材でも硬いものほど磨けば輝きます。
柔らかいとマットになるイメージです。
その証拠にこの作品の表面はサラサラしています。
磨いた時はドロドロになったものです。
さてこの石。
加工する前から背面を何者かにつねられたような形をしていました。
それを利用して、つねられて声をあげているところにしてみました。
初めて触る素材なのによくど真ん中に穴を開けようと思ったな…というのが2年後からの感想です。
石は丈夫な素材なので、家では服のボタンをよく入れています。
大きめでキラキラがボタンが1番似合ってました。