禍々しいきのこ

「禍々しいきのこ」
2020年(高校2年生)
スタイロフォーム 針金 新聞紙 石塑粘土  ジェッソ ニス

この課題は難産でした…。
高校3年生の冬に卒業制作を控えた私たちは、その予行練習として
「植物」をテーマに自由に作って良いよ!というほぼ初めて…いや、小学生ぶりの自由制作に近い課題を課されました。

素材も自由!サイズは上限だけ定めとくね!はいどうぞ!
といきなり投げ出されたのです!
「「「じゃあ完全に自由にしてくれよ!」」」
私たちの正直な気持ちはこれに限ります。
なんで植物???
何を隠そう私は昔から植物に関心のない女の子だったのです。
私の通っていた小学校では毎年近所の川に赴き、
6年間かけて虫又は植物、魚、水質、歴史を学んできました。
1.2年生はただ好きなものを取るだけ、3年生では虫か植物を選んで少し調べてみよう!というカリキュラムでした。
…そうです。
私は3年間虫を取り続けました。
幼い頃から生き物が大好きだった私はそれだけでは足りず、山で虫取りをするほどに虫が好きでした。

つまり、植物縛りはどうも歯がゆい!
あろうことかこの課題には、「アイデアをまとめる」という名目の元
50枚ドローイングというものもありました。
その名の通り50枚のドローイングをするのです。
もうキツいのなんの!
他のコースに3年の夏休みの課題として100枚ドローイングがあることは知っていました。テーマも自由です。
しかし私たちは新設されたコース。事前告知は何もありません。
ある日いきなり「1週間で50枚ドローイングして!」と言われたのです。
しかも期間は期末2週間前の1週間!
いや〜私が真面目に勉強する子だったら寝込んでるところでした!!!
あっぶね〜!!

実際に描き始めてもいまいちピンときません。
当時も今も心惹かれたキラキラぱちぱちと胸高鳴るところから広げてアイデアを生み出しているのだから無理もありません。
心にゆとりある今ならどんなものにも魅力を見出せますが、クラス仲も悪く友人間の揉め事に巻き込まれコロナ禍の生徒会長だった当時の私にたったの1週間ぽっちで0から魅力を見つけて形にしろだなんて無理な話です。
しかも季節は冬。植物側だって「え?!今?!」と驚いていたに違いありません。

案の定魅力どころか植物全般が不気味に思えて仕方ありませんでした。好きだった街路樹が並ぶ道すら憂鬱なものになってしまうくらいでした。
最終的に小学生でも描けるんじゃないかと思えるドローイングをなんとか量産して提出はしたはずです。もちろん立体作品のアイデアなんて全く浮かびません。ただとりかかる前よりも植物を嫌い、恐れるようになっただけでした。

これを立体に…?
冬休みの間にプランを考えて来いと言われました。
たった2週間の冬休みに、です。
ドローイングの間もずっと考えていました。通学中の1人の時間にも、トイレのちょっとした時間にもシャワーを浴びている間も、コロナ禍による黙食の間にもずっと。期末テストのあまり時間でも考えていました。
それでも全く浮かばなかったものをたったの2週間で…?

えぇ勿論浮かびませんでした。
頭を休めてみたり、植物がらみの素敵な思い出を思い返してみたり、当時できることはなんでもしていたつもりです。思い返しても頑張っていたと思います。
それでもときめく案には巡り会えませんでした。

冬休みがあっという間に過ぎ去り、先生との面談が迫ってきました。
アイデアを確認し、アドバイスや相談をするための面談です。
卒業制作の練習ですから…面談もちゃんとあります。

私は前日に無理やりひとつのアイデアを繕いました。
私自身も気に入らない誰にも愛されていないアイデアです。でもそれ以外は形にすらならなかったのです。
だから全く手を抜いたつもりはありません。手の抜き方すら思いつけませんでした。

そんななか先生に半笑いで言われた言葉がこちら!!


「小学生の工作じゃないんだからさ…笑」


そんなことある???????????
当然耐えられなくなってトイレに1時間立て篭もり、呼びにきたタイミングで保健室に拠点を変えました。さすがに無理です!!!!
限界でしたからね!
ちなみにその先生とはちょくちょく揉めていました……きっと私に良い印象がなかったんでしょう…。全部相性の悪さによるすれ違いだったんですけどね………。

この面談は無事に私のトラウマ面談TOP3にランクインしたわけですが、返って冷静になることができました。
植物が怖くて上手く掴めないのなら、それを作品にすれば良い!
と気がついたのです!

そうと決まれば早速行動!他の先生に相談して、ビジュアルが比較的好きな「きのこ」つまり菌類も植物に入るという言質を取りました。
ここで聞いておくことで講評が有利になります。
自由度の高い作品において講評は戦いの場だと思っていますからね。当然です。

できる限り不気味なものを作りたい。例の先生に事前相談をしたくない。小学生の工作を舐めるな。

目的をこの3点に絞り、半ば復讐に近い強い気持ちでもう1度案出しをします。
特に3つ目の「小学生の工作を舐めるな」が良いスパイスになりました。
図工の教科書を思い出すのです!
高校生ごときの技術で美大から卒業したばっかのあの先生に敵うはずが無い。現実をちゃんと見ます。
ならばこの学校で習っていない事をやってやりましょう。美大生は案外幼い頃から画塾に通っていたり親に教えられたりと、初めから「きちんと」していることが多いのです。
私の様に図工が大好きで自力で学校を見つけ、両親の猛反対を説得してここにいる人なんて超激レアなのです。
だから見せてやりましょう。

作ります

禍々しさは計算ずくよりも自然にやった方が出るはず。
規則性のなさが不気味さを呼ぶのだ。

と思っていたので、土台となる形をスタイロフォームで適当に作ります。
2パーツを貼り合わせ気の向くままに削ります。扱き下ろされた初期案でもスタイロフォームを使う予定だった為、素材も電熱カッターも自前です。
ニクロム線の抵抗によって発熱するこの仕組みは小学生の頃から知っていましたし、自作の電熱カッターも当時作りましたからこれは小学生の工作です。

次に太めの針金をU字に折って差し込んでいきます。
U字部分はゆとりを持たせ、その他は軽く捻っておくのが強度の秘訣でしょうか。
きのこの骨に当たる部位です。木の枝から着想を得て、不規則に曲がりつつ節目がこぶになっているのがポイントです。
初期案ではコブに目玉も描いてやろうかと思っていました。
50枚のうち例の先生が気に入ってくださったものに枝の節に目玉を描いたものがありましたからね…。
ちなみに針金も扱き下ろ…(以下略)のため自前です。太めのものと細めのものの2種類用意していました。
針金で骨を作る作品は小学生の頃に武蔵美のワークショップで経験済みです。小学生の工作ですね。

次はお待ちかねの笠部分。土台のあまりで出たスタイロフォームを使用しています。この時にせっかくだからと3辺それぞれが指定サイズの上限になるよう調節しました。
だってでっかい方がかっこいいんですもの!
安定性が必要なので笠には切れ込みを入れています。切れ込みといってもきちんと針金分の厚みは持たせてあります。ワクワクさんでも切れ込みは大事でしたからね。小学生の工作です。

続いて肉付けです。新聞紙は水に濡らした状態で造形をすると乾燥した際にカチカチになります。この発想に辿り着いた経緯を説明しましょう。
小学生の工作と言われてまず反射的に図工の教科書を思い出しました。
私は教科書を配られたら図工と国語と道徳を読み耽り、理科と音楽を流し見するタイプの小中高生だったため、ある程度は覚えているのです。
その中でふと浮かんだのは「紙にボンドを溶かして形を作ると乾いた時に固まる」というもの。
丁度いいですね。
とはいえこの授業では先生の力は借りたくない。
筆洗にボンドと入れるのは気が引けるし、少しやってみたところ手にこびりついて返って作業がしにくかった。そういえば新聞紙はギチギチにすれば固まるな…?それでいいや!
です。
まごうことなき小学生の工作ですね。こうしてきのこの茎(?)部分が肉厚になりました。

けれどもやっぱり剥がれないかが心配です。こんな時のための細い針金!
新聞が剥がれ落ちないよう上からきつくぐるぐると巻いていきます。私の様な非力は指が痛くなるくらいの力加減で縛れば大丈夫です。
基本的に力が足りていなければ加減の心配がいらないのが良いですね。
剥がれそうなものを針金で縛るのは通学路の電柱を見れば理解できます。
小学生の工作ですね。

さてこれである程度の造形は完成しました。いよいよ細部に入ります。
このタイミングできのこの笠を骨に固定します。これ以降は取れる必要がありませんからね。
ここでは石塑粘土の登場です。…石塑粘土なんて知らないって?
大丈夫です。当時の私も分かっていません。夏休みの課題で支給されたものが足りなくならない様買いだめしていただけなのです。
重い紙粘土みたいなものです。
この石塑粘土を表面に刷り込んでいきます。質感の統一が目的です。
全く意図していなかったのですが、最後の細い針金が良い感じに凹凸を出してくれて、この上ない芯棒の役割を担ってくれました。偶然の産物です。その後の塑像課題で知りました。
ここでひとつの問題が生まれました。
バランスが悪い。
規定の最大サイズを目指したのまでは良かった。しかし縦横に伸ばすにしては土台が小さすぎたのです。計画をきちんとしていないが故の問題点です。
ぶっちゃけ今から構成を直すのはめんどくさすぎる!
一応試みたものの固定がしっかりされすぎていて引き抜くことすらできませんでした。大破の予感…!
頑丈に出来ていた証拠ですね。素晴らしいです。
そこで生まれたのがこの溶け出した様なデザインともりもりボコボコです。
どちらも趣味ですし、人によって「可愛い」と「気持ち悪い」で意見がぱっくりと割れる、この作品にぴったりなモチーフです。
こう見えてこれがないと自立しません。無駄そうに見えるものが実は1番大事だったりする…生物あるあるです。生き物らしくなってきましたね!
バランスが悪かったら重心を意識する。てこの原理でやりましたね。
つまり小学生の工作です。

現在の状態は土台だけ元の青色が残り、その上に粘土の白いきのこが寄生しているわりとリアルな感じです。
配色が逆なら良かったのですが、あまりに土台が目立ちすぎる。
統一のために全体にジェッソを塗りましょう。ジェッソとは地塗り材の一種です。過去のスタイロフォームの課題で1度だけ使ったことがあったきりの顔見知り程度の画材です。
ただ私がこれ以外にスタイロフォームに使える画材を知らないというだけで選ばれました。ジェッソが泣いています。先生に相談したくないので仕方ないですね。
そんな後ろ向きな採用理由にも関わらず、ジェッソは良い働きをしてくれました。アクリルガッシュとは違う丁度いい感じの色味になりました。
その色が気に食わないから他の色を塗る。知ってるからその画材を選んだ。幼稚園児でも出来ますね。幼稚園児の工作です。

最後になんか生命力と気持ち悪さに欠けるなと思った私は上からニスを垂らしました。
幼稚園に入る前に山で母と作った木の作品を思い出したのです。あのぬらぬらした感じ…これに垂らせば粘膜っぽくなるかも…!!
何を隠そう私は年少さんからのカエル好きです。この思考になるのは必然。
カエルを苦手とする人の多くはあの質感だと言っていた気もしてきました。
あえてコッテリと垂らすことで動物のような躍動感を感じさせない仕様となっております。谷部分にたまっているのもなんだかウツボカズラみたいで不気味でしょう…?
少し黄味がかっているのも酸味を感じてきませんか…?
いい感じです。思っていたよりも命を宿しました。
細かく塗るのが苦手だからってだけじゃないんです。効果はありましたから。
先述したように幼稚園に入る前から着想を得て、年少さんの頃から愛するカエルに背中を押され、小学生で知った食虫植物に近づいたのです。
大きく見積もっても小学生の工作と言えるでしょう。

完成です!!!!!!

学年で1番大きくて不気味な作品になりました!
小学生の工作の底力です。

講評(復讐)

お待ちかねの講評です。
講評には例の先生だけでなく、言質をとった先生や隣のクラスの人たちもいます。やってやります。
でも最初から直接不満をぶつけるだなんて野暮なことはしません。このきのこが全てを伝えてくれるはずですから。
初めに菌類の許可を得たこと、次にとっても難産だったこと、この作品が不気味さをテーマにしていること、最後に制作手順のざっくりとした説明。このような編成で挑みました。
「最初は全然違ったよね?」との指摘をいただいたところで「扱き下されちゃったので…小学生の工作と美術の違いが本当に分からなくて苦労しました。これは小学生の工作に入りますか…?」とかましてやりましたよ!
参考作品になりました。やったーーー!!!!!!!!

でも後日大きすぎて保管の場所がないから持ち帰って良いと言われました。
じゃあ最大サイズをあんな大きさにするな!!!!!!!魂の叫びです。
翌年、機会があってこの課題のプリントを拝見したら最大サイズがちゃんと小さくなっていました。
そして参考作品のど真ん中に、このきのこがありましたとさ。


いいなと思ったら応援しよう!